『ベンツの新車の一番高いヤツが買えるほどのダイアモンド』 - エッチでハッピー!!✩★✩ゲイ要素の高いオリジナル小説✩★✩
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『ベンツの新車の一番高いヤツが買えるほどのダイアモンド』

あらすじ/ヘア・スタイリストである清夜(せいや)には、五年間生活を共にしてきた、若くして不動産の事業に成功した和輝(かずき)がいる。しかし清夜は自分の客である速斗とたった一度の浮気をしてしまう。その罪悪感で、和輝のもとを飛び出す清夜。しかしある晩、和輝が清夜を訪ねて、清夜の新しい職場へやって来る。清夜は自分の夢であった、ブライダルのヘア・サロンで働いていた。それからというもの、毎週末、清夜とレストランに行き、一緒に食事をすることが和輝の楽しみになる。和輝は清夜が速斗と一緒に暮らしていると思っていたが、実は清夜が彼と別れて一人で住んでいることを知り、彼に、ベンツの新車の一番高いヤツが買えるほどのダイアモンドのエンゲージリングを贈って、帰って来るように、と懇願する。しかし、清夜はどうしても和輝を裏切った、彼自身を許すことができない。不眠症になった和輝は、医者からもらった睡眠薬を全部飲んで一か月入院する。死に損なった和輝は、まだ生きている自分の強さを自覚し、また清夜に帰って来るよう頼みに行く。都心に家を購入した和輝だが、その古い洋館には幽霊がたくさん住んでいて、その幽霊を見ているうちに、浮気の罪悪感など、どうでもよくなった清夜はとうとう和輝のもとに帰って来る。実業家和輝は、色々な社交の場に清夜をエスコートしていく。ある音楽財団に頼まれて、ブラジル人のバイオリニスト、アレックスをコンテストの決勝に出演するまで、和輝達が面倒を見ることになる。決勝を前にナーバスになったアレックスと、ベッドを共にする清夜と和樹。ところが今度は和輝が若い男と浮気してしまう。清夜はまた和輝のところを飛び出してしまう。若い男と別れた和輝は清夜のもとに帰って来る。仕事の忙しい清夜は拒食症になってしまう。清夜は、献身的に看病してくれる和輝が清夜の本当の王子様と気付くのだった。





ベンツの新車の一番高いヤツが買えるほどのダイアモンド


「ねー、店長さー、今のお客さんも不倫してるって言ってた。あの人達ってマジでやってんの?それともただの願望?」

そこは高級住宅街にあるヘア・サロンで、結婚式場の中にあるんだけど、お客さんは近所の奥様方も多い。

「不倫?ほんとにやってるんだよ、俺が思うに。」

「なんで分かるの?店長もやってんの?旦那いるのに他の男となんて。」

「君は真面目過ぎるんだよ。」

「じゃあ、やっぱり店長やってんだ。なにそれ、ここのお客さんと?」

「もう予約のお客さん全部終わったんだろ?そろそろ片付けて今日は早く帰ろ。」

そこへ誰かが入って来る音。店長が、

「あ、すいません。うち予約のお客さんだけなんでー。」

っていう、一日に何回か繰り返される、いつものセリフ。俺、裏で片付けものしてたんだけど、こんな時間にお客?この店通りには面してないんで、外から客は入って来ないはず。

「あ、清夜のお知り合いですか?」

って、言う店長の声。俺が店に行くとそこには、和輝。もう一生会うつもりはなかったのに。俺はひと目だけ彼を見て、目をそらしてしまった。彼に顔向けできない。俺はそれだけの罪を犯してしまった。店長が、

「もういいから、ここ。」

って、言ってくれて、俺は和輝と一緒に店を出た。結婚式場の前に彼のボルボ。彼が俺のために助手席のドアを開けようとするから、俺は、

「悪いけど。」

って消え入りそうな声で言って、式場の中にあるバーに向かった。今夜も結婚式が行われてて、会場の外にまで宴の声が響いている。和輝は式場のベルボーイに車のキーを渡して、いつもみたいに俺をエスコートして歩く。この人はいつも紳士だった、優しく、こんな風に。

「清夜。」

なん百回も、なん千回も、俺のこと呼んでくれたのと同じように、静かで低い声で、また俺の名前を呼ぶ。

俺は彼の顔をまともに見られない。どうしてここが分かったの?って聞こうとしたけど、こんな離れたとこにある隠れ家みたいなヘア・サロン、興信所でも使わない限り分かるはずない。だから聞かなかった。もしかしたら速斗のことも、全部知られてるのかもしれない。

「清夜、俺はなにがあったか聞かないし、なにがあったにしろ今日は俺と一緒に帰ってくれ。もうどこへも行かないって約束してくれれば、俺はなにも言わないし・・・」

もう一回和輝の顔をチラッと見た。精神の強い彼にしては憔悴した顔。おなじようなことを何回も繰り返し言ってるのも、頭脳明晰な彼らしくない。


俺、悲劇のヒロインぶってるのかな?それだったらどんなによかったか。分からない。もしかしたら多少それもあるのかもしれないけど。速斗とはもう別れた。結局一度切りの裏切りだった。それが楽しかった訳でもなかったし、セックスだったら和輝の方が何倍もよかった。だから罪悪感だけが残った。両方の男から逃げたんだけど、結局馬鹿みたいに両方の男のことを恋しく思った。浮気なんてなんともない、って思う人もいるだろうけど、俺はもうどちらの男ともやっていけない。こんな罪悪感を抱きながら付き合うのは俺には無理。


速斗は店のお客さんで、若くてどんな髪型も似合って、俺の言った通りに、パーマかけようとか、ハイライト入れようとか、なんでも受け入れてくれた。

「店の中だとドライヤーの音がうるさくて、話しができないから。」

それが最初の誘惑。それから。

「清夜さん、今日終わるの待ってていい?」

それが二度目の誘惑。

店の外で客と会うのは俺にしては珍しくて、年下の男も俺には珍しくて。


ほんの少しだけど、雪がちらついて来た。俺は和輝との最初のデートを想い出していた。雪が降って来て、和輝が着ていた厚手のコートで俺のこと包んでくれた。和輝もそのこと憶えてるのかな?今それを想い出しているのかな?デートに行くと彼はいつも手を握ってくれた。美容師の荒れた手が恥ずかしかった。和輝のお陰で覚えた贅沢。でもまた元に戻ってしまった。ベッドもない古いアパート。魔法が消えたみたいに。雪を見ているふりして、和輝の方を見た。泣いてる?彼の泣いてるとこなんて一度も見たことない。なん年俺達一緒にいたの?五年?多分そのくらい。

「前にも言ったけど、もし清夜が自分の店を持ちたいんだったら、その費用も出すって。」

それ言った和輝が涙声だったんで、ほんとに泣いてるって分かった。今、この人の暖かい胸に抱き付いて、俺が悪かった、って言えたら。こんないい人を泣かすなんて俺ってなんて罪深いの?彼を幸せになんてもう俺にはできない。

「俺はもう和輝を幸せにできない。」

「そんなことない。」

「その資格がないから。」

またしばらく沈黙して、

「清夜がいてくれるだけで、俺は幸せだから。」

和輝はいつも俺の馬鹿みたいな夢を楽しそうに聞いてくれた。ウェディングの仕事をして、デコレーション・ケーキみたいな頭にホイップ・クリームみたいな飾りを付けて、マリー・アントワネットみたいな縦ロールに、シンデレラみたいな馬車に。

「和輝、いい人を捜して幸せになって。」

「清夜みたいなヤツ、どこにもいない。」

「でも、いい人きっとたくさんいるから。」

「清夜みたいに可愛くて、楽しくて、時々馬鹿なこともするけど、愛おしくて。」

ケンカしても、いつも泣くのは俺の方で、今夜は逆で。なんで俺が泣かなかったのか、それは泣くと絶対和輝の胸にすがって泣くと思ったから、だから俺の緊張感はすごかった。

「清夜。俺また来てもいい?」

「ゴメンね。もう会えない。」

でも俺もう逃げはしない。これで和輝から逃げるの無理だって分かったから。日本中どころか他の国行ったって、彼はきっと俺のこと捜し出す。でもこの人だったらいやじゃない、そうされても。見守られてるような気がするだけ。


店長が、

「こないだの人なに者?あれ、ボルボのセダンで一番高いヤツだよ。」

「店長、車詳しいんですね。」

その日は土曜日で、結婚式がいくつかあって、そのうち二つは店長がやって、俺はひとつやった。可愛くできてうれしかった。髪にたくさん生花を飾った。店が終わる頃、和輝が入って来て、俺が、

「ゴメン、まだ後片付け終わってなくて。」

そしたらまた、あの馬鹿店長が、

「いいよ、清夜。」

って。なんか店長、ボルボのセダンの一番高いヤツに乗ってる人は、みんなヒーローみたいな感じ。

「そこのレストラン予約したから。」

「俺、こんなカッコで。」

実際ひどいカッコで。しょうがないんで、近くのファミレスに行った。和輝とファミレスに来たのは初めてで、全然似合わないから笑いそうになった。なんでこんなとこまでついて来たの俺?どうせどこへ行っても逃げられないと思ったから?和輝は興味深そうにメニューをめくっている。

「清夜、なに食べる?」

「俺、なにもいらない。」

ウェイターが来たんで、和輝が適当に俺の好きなモノをオーダーした。ちょっと悔しかったけど、それはほんとに、みんな俺の好きなものばかりで、おまけにお腹空いてたから、かなり必死に食べてしまった。和輝が、

「あまり食べてないんじゃないのか?」

「食べてます。」

って、ウソ。自由になるお金あんまりないし、料理嫌いだし。和輝は、

「なんか、腕とか細くなったんじゃないか?」

って、俺の腕に触った。不意をつかれて、腕を引っこめるチャンスを失った。そのついでみたいに、俺の手も握った。そしてまたそのついでみたいに、俺の手を愛撫するみたいにして、さすがにそれはヤバいと思ったから、手をテーブルの下に隠した。

「俺、ちゃんとやってるから、心配しないで。」

「顔色が悪いよ。」

「今日、店、忙しかったから。」

「こんなこと言って、嫌われたくないんだけど。お金が必要ならいつでも言って。」

「ありがとう。」

この人の影響下からは逃れられないのかな、俺って。もちろん、お金もらうつもりはないけど。

「君がいないとベッドが大き過ぎて。」

「ゴメンなさい。」

「デザート食べるだろ?」

悔しかったけど、これには逆らえない。また必死にデザートを食べててふと見ると、和輝がとても楽しそうな顔をして見ている。彼は、

「よく食べるね。なんかテイクアウトしてく?明日の分。」

「結構です。」

って、言ったんだけど、和輝がウエイター呼んじゃって、じゃあ、せっかくだから、明日のランチ、オーダーしてもらった。和樹と俺っていつも、こういう保護者と被保護者的関係なんだけど、実際年は五つしか離れてないんだよな。和輝は若くして成功して、俺はいつまでたっても成功しない。


それから和輝と俺は、週末、たいてい土曜日に会って、レストランで食べさせてもらって、ランチも持たせてもらって、という関係が続いた。和輝は帰って来いとかそういうことはあまり言わずに、ただ俺が食べているのを嬉しそうに眺めていた。和輝はよく俺のことを観察していて、満腹になると、手を握ろうと俺があんまりそんなことを気にかけないということに気付き、いつもデザートが終わるくらいになると、俺の手を握り、愛撫してくる。俺が満腹でスキがある時、一度キスされた。ちゃんと俺のくちびるに。全てを見透かされているような気がする。俺がただ意地を張っているだけだって。でもそうじゃない。俺はただ意地を張っているだけじゃない。俺は和輝にすまないことをしてしまって、罪の意識でもう彼とは一緒にいられないし、早くいい人を見付けて幸せになって欲しい。

「和輝、俺のことなんて忘れて、早くいい人見付けて。」

「俺、清夜のこと愛してるし、君みたいな人絶対いないし。清夜はもう俺のこと愛してないの?」

「分からない。」

「いい、それでも。愛してないって言われるよりは。」

「ゴメンね。和輝には幸せになってもらいたい。」

「俺、清夜とセックスしたい。前みたいに激しく。」

「ゴメン。」

その次の土曜日、少し遠くのレストランに行こうって言われて、彼の車に乗った。帰りにお腹がいっぱいになったところで、肩を抱かれてキスされた。それはかなり性的なディープ・キスで、和輝とのセックスの記憶が、わー、ってよみがえった。お腹いっぱいだったので、抵抗する気は起らず、それを見透かされ、彼の熱い胸に抱きしめられてしまった。この胸のこの熱い記憶。俺がどんなに甘えて飛び付いても、ビクともしないその胸に、久し振りに抱かれてしまった。

「清夜。このままうちに来て、前みたいに俺のケツをオかしてくれないか?」

「ゴメン、明日仕事早いから。」

「清夜、お前どこに住んでるの?送って行くから。」

「いいの、またお店で降ろして。」

どうせ和輝は俺の住んでるボロアパートなんて、どこにあるかとっくに知ってるはず。うちに帰って、なんにもない部屋を見渡して、俺ってなにやってんだろう?和輝のマンションは、夜景のきれいなペントハウス付の豪華なものだ。こことは比べ物にならない。あんまり格差があるから笑えてくるけど、これが俺の選んだ人生。でもほんとに俺が選んだのかな?たった一度のあやまちで?それともただ起こったの?和輝は俺のしたこと知ってるのかな?誰かが誰から逃げるってシチュエーション、その原因は?普通だったらどう思う?和輝みたいに頭の明晰な人だったら、すぐ分かるのかな?俺が浮気してその罪悪感のために彼のもとを逃げ出した。それにしては毎週食べさせてもらってる。次の日のランチまで。そしてなんだかんだキスされたり抱かれたり。これじゃあ、あんまり逃げたした意味ないんじゃ?


店長と和輝は彼のボルボについてうんちくを傾けているうち、仲良くなってしまった。

「清夜、彼、やっぱり普通の人と違うな、すごく頭いいって感じ。」

「まあ、頭はいいんじゃない。」

「仕事なにしてんの、彼。」

「よく知らないけど、不動産関係。」

「あんな人とどうやって知り合ったの?」

「なんかね、あの人の会社が不動産の差し押さえをしようとして、で、その建物に俺が働いてたヘア・サロンがあって、それで今、差し押さえされたら仕事ないしどうしよう、って思って馬鹿みたいに表で泣いてたの、そしたら彼が来て、どうしたの?って。仕事見付かるまで待ってくれた。そして付き合って、って言われた。」

和樹は最初から俺の保護者みたいなものだった。泣いてる子供をあやすみたいに。

「いい人なんだね。」

「多分ね。俺もう別れてるから。」

「なんで別れたの?」

「いろいろ。」

「もったいない。」

「そうなんだけどさ。そういうこともあるんだって。」


次の土曜日。冬だからさすがに結婚式もあんまりなくて、まあ、あることはあるんだけど、それで仕事終わったころに和輝が来た。月末だったから全然お金なくて、ヤバいなっていうのが多分顔に出てたんじゃないかな。帰り際に封筒を渡されて、お腹いっぱいだったから判断力がなくて、ありがとうも言えずにそのまま別れた。アパートに帰って中を見たら二十万も入ってた。びっくりして電話して、ほんとはもらっちゃいけないんだけど、ゴメンね、ありがとうって言った。そのお金でもうちょっといいマットレスを買った。相変わらずベッドはないんだけど、お陰でよく眠れるようになった。でも、なんで俺こんなお金もらっちゃったの?逃げた意味あるの?少なくとも俺、和輝とはセックスしてない。逃げるってそういうこと?セックスしてないって、それだけのこと?和輝とのセックスはいつも刺激的で、俺が俺のペニスを和輝のアヌスに入れる瞬間の、彼の身体のあの肉体の内側の湿り気を感じるあの瞬間の感覚。俺は和輝が俺にどうやって乳首を責めて欲しいか、知っている。でもそうゆう風にはヤらないで、いつも和輝は俺に懇願して、それで俺は和輝の乳首のして欲しいことを飽きずにヤって。そして俺は和輝のペニスが俺にヤってもらいたくて、その大きさとか色とか形とか俺は触りながら考えて、でも俺はまだじらしてお前が俺の口や舌や手やくちびるのことを待ってうめいて、俺のことが欲しいと叫んで、俺はただお前のペニスを見ているだけなのに、お前のペニスがますます大きくなって硬くなっていくのをただ見てて、そしたらやっと俺の口や舌や手やくちびるがお前のそびえたったモノに触れて、お前はもう歓喜の声を上げて、俺はお前のペニスをヤる、それは俺の、大きな喜びで、お前がイく前に、俺は俺の口の中に出してって、お願いしておいて、とうとうお前が俺の口の中でイって、お前が今俺にくれたモノが俺の口をつたって俺のあごから俺の胸につたって俺それを感じて、それがなにか野獣を殺した口から血が流れるようで、なぜかお前を征服したような気になって、そして俺はお前のアヌスに戻って、お前の中に容赦なく分け入って、俺のペニスがあんまり熱いからお前がよろこんで、そして俺がお前のケツの中の形を考えながら、俺はお前の好きな感じるスポットを突いて、お前の喘ぎ声が大きくなって、そしてさらに大きくなって、俺がお前の感じるスポットをヤるたびにお前のケツが動いて、それに加えてお前のその大きな声で俺がイって、お前がお前の熱い胸で俺を息ができなくなるくらい抱き締める。それが俺達のセックス。男と男の。


次の土曜日、いきなりどしゃ降りの雨になって、食事が終わったあと、和輝が道に迷いもせずに、俺のボロアパートまで俺を送ってくれた。和輝はそのアパートの前に似合わないボルボを停車して、俺のあとについて来た。お腹いっぱいだから?それともお金もらっちゃったから?俺が彼を止める理由もさしてなく、彼は俺のカーテンもない部屋をなん回も見回して、驚いたように、

「お前、ここでひとりで住んでんのか?」

って。それからバスルームの扉まで開けて見て、なにか言うのかな、って思って待ってたらなにも言わないで、その驚いた顔のまま、キスひとつしないで出て行った。あとで考えたら和輝、俺が男と一緒だと思ったんだな。


そのまた次の土曜日、ここが和輝の知能犯であるゆえんで、

「俺、清夜の言う通り、他の男とデートした。」

俺はいつものように食べながら、一瞬、フォークを持つ手が止まった。長い長い三秒間たっぷり止まったと思ったら、我に返ってまた食べ出した。他の人捜して幸せになって、っていつも俺が言ってたことなんだけど、それがどういうことか自分でも実は分かってなくて、食べながらだと和輝の目を見なくてすむから丁度よくて、

「へー、どんな人?」

「お前くらいクリエイティブで、お前くらいイケメンで、お前くらい若くて、お前くらいベッドがいい。」

最後のベッドのところで、また長い長い三秒間があって、今回はそれでは足りなくて、その上にまた三秒間があって、だからほとんど六秒くらい俺のフォークが止まって、その間に俺のない知恵を結集させて、

「よかったね、じゃあもう俺達会うのよさないと。」

それからは俺の目が挙動不審に泳ぎ出して、その俺くらいベッドのいい人のことをいろいろ想像して、何度も手が止まりながら、やっと食べた後、雨も降ってなかったのに和輝はまた俺のアパートまで送ってくれて、迷わず俺のあとについて和輝は中に入って、俺はその俺くらいベッドがいいって人、どんなとこに住んでんだろ、もちろんここよりはましだろうな、和輝とは一緒に住んだりするつもりなのかな、って考えてたから和輝が入って来たという事実にはあんまり関心がなくて、ここ椅子もないからマットレスに座ってたら、和輝も隣に座ってきて、彼がこっちを向くからあんまり深く考えもせずに、俺も彼の方を見たら、もう少し俺の目が精密な角度で和輝の目をしっかり見るように、彼が俺の肩を回して俺にキスしてきて。それはケンカのあととかに和輝がしてくるロマンティックな長いキスでそれをされると俺、いつも抵抗できなくなってなんでも馬鹿みたいに許しちゃって、俺のない頭で考えてもダメだって思ったから、なんでも口に出ることから言おうと思って、

「そんな人いるのに俺にそんなキスしたらダメじゃん。」

「どうして?」

「だってその人に悪いじゃん。」

「そうかな?」

って、ほんとは俺、そんな会ったこともない人のことどうでもよくて、そしたら和輝さっきと同じかもうちょっとパッション込めてキスしてきて、俺がうっかり小さなため息ついちゃって、そしたら和輝、俺のこと知らないうちにマットレスに押し倒して、っていうか、知らないうちに押し倒す、っていうのが不可能って思われるかもしれないけど、俺の場合それがあり得て、彼が俺の股間に触れて来て、それに俺のベルト外してきたりいろいろされて、俺、童貞みたいにさっさとイっちゃって、ヤバいなって思ってると、和輝が、

「清夜。」

って、今までも和輝優しかったけど、もっと優しく俺のこと呼んで、

「清夜、一生俺の側にいてくれるだろ?」

って、和輝がどこかから魔法みたいに、小さな箱取り出して、見たら俺の一番好きなクラシックな立て爪のイエローゴールドのシングルストーンのダイアモンドリングで、俺の思考、ってもともと大して働きはよくなかったけど、完全にストップして、こんなでっかいダイアモンド職場では使えないな、ってそんな馬鹿みたいなこと考えてて、凍ってたら和輝が俺の指にそれをはめてくれて、そしたらサイズもピッタリで、どうしてこの人って俺のことこんなになんでも知ってるの、って。長いフリーズも解けて、俺が、

「でも。」

って、やっと言って、

「でも?」

「こんなのもらえない。」

「どうして?」

って、俺の大好きな低い声で。

で、それから俺、また長い氷河期に入っちゃったんで、和輝はそのまま帰って、そしたらうちの結婚式場に宝石屋入ってんな、って思い出して、次の日に見せに行ったら、そこの人若い男性で俺がいつも髪切ってやってて、

「清夜さん、どうしたんですか、これ?」

「男にもらった。」

そしたらその人近くに誰もいないのに、俺にヒソヒソこれヤバいですよ、って、

「えっ、どのくらいヤバいの?」

「これでベンツの新車の一番高いヤツ買えますよ。」

「え、マジ?」

って、俺、ベンツの新車の一番高いヤツがいくらすんのか知らなかったけど、

「こんなとこに持ってないで、銀行の貸金庫入れといた方がいいですよ。保険かけて。」

で、ベンツの値段調べて、銀行の貸金庫借りて保険かけたら、丁度俺の月々の給料と同じかもっとだな、って気付いたから、和輝に話してやっぱり今は受け取れない、ゴメンねって。和輝、残念そうだったけど、

銀行の貸金庫と保険かけたら俺の給料飛ぶって話ししたら、分かってくれて、

「でもこれは君のものだから。」

って。その時も週一回の俺が栄養をたくわえる大事な会合だったんだけど、

「そのデートしてる人どうなったの?」

「なんで?」

「だってこんなとこで俺にモノ食わしてるなんて、その人が知ったら。」

「俺、君に一生側にいて、って頼んだろ?」

「うん。」

「じゃあ、他のヤツ気にすることないだろ?」

「でも。」

そしたら和輝、ニヤニヤして、俺のこと子供でも見るような顔して見て、そしたら俺ほんとになんか、大人に見られてる子供みたいな気持ちになっちゃって、お行儀よく座りなおして、それでも和輝、俺のことニヤニヤして見てるから、とうとう俺が、

「また、だまされた!」

和輝はおもしろそうに俺のこと見てて。で、俺が、

「なんで俺、いつも和輝にだまされんの?子供みたいに簡単に。」

って。そしたら和輝が、

「俺、仕事がああいう世界だろ?だから君みたいに簡単にだまされるなんて、奇跡みたいな人だよ。」

「馬鹿にしてるんですね。」

「だから君に俺の側にいて欲しい。」

確かに五年間一緒にいて、和輝、海外に逃亡したり、ヤクザに追われたり、警察に踏み込まれたり、その時は俺だけうちにいたんだけど、警察に、君だれ?和輝のなに?職業は?名前は?って色々聞かれて怖くて泣きだしたら、こいつなにも知らないな、ってゆるしてもらって。


そのあと、宝石屋の若者が俺のとこに来て、また周りに誰もいないのに、ヒソヒソと、

「清夜さん、アレどうしたんですか?」

って、聞くから、俺もヒソヒソと、

「アレ、男に返した。」

「え、マジで?」

「うん。」

「その人とは結婚したくなかったから?」

「まあ。」

「もったいない。今度俺に紹介してくださいよ、その人。」

「いいよ。」

「ほんとですか?」

「うそ。その人あの指輪は君のものだからって。」

「なんだ、じゃ、別れたわけじゃないんだ。」

「貸金庫借りて保険かけたら、俺の給料なくなるじゃん。」

「まあね。あんなダイアモンド、宝石鑑定の学校の特別授業でしか見たことない。」


その次に和輝が来た時、宝石屋に連れてって、

「和輝、この人が貴方と付き合いたいって。」

って、言ったら、彼が、

「え、こんな若くてイケメンな方なんですか?もっとオッサンかと思った。」

そしたら和輝が、

「君、オッサンが好きなの?」

って笑って。で、俺が、

「彼はね、あのダイアモンドに目がくらんだらしいよ。」

それからも結構しつこく、もう別れたの?いつ別れるの?別れたら教えて、って言って来て。


また土曜日に和輝が、俺がアイスクリームを美味しそうに食べ終わるのを待って、

「清夜、俺こういうのも好きだけど新鮮で、君とデートしてるみたいで。」

って、俺の手を握ってきて、でもなぜか俺の顔を見ないで、

「俺、君が側にいてくれないと。」

「あんまり説得力ないかもだけど、早くいい人を捜して。」

「じゃあ、どこをどうやって探したら、君みたいな人と会えるか教えて。」

って、また俺の顔見ないで。いつも自分に自信のある人らしく、人の目を見て話すのに。どうして?で、俺やっと、

「和輝、顔色悪いよ。具合悪いの?」

「君に心配させるつもりはなかったけど。」

「病院には行ったの?」

「ああ。」

「したら?」

「大したことはないよ。」

「どうしたのか言って。」

「眠れないんだ。」

って、また俺の顔見ないで。もともと眠りの浅い人だった。俺とセックスするようになって、よく眠れるようになったって。今までにない罪悪感。俺の方から初めて彼の手を握った。それから俺のアパートに行って、和輝をマットレスに寝かせて、俺がいつもしてたみたいに、彼の頬をなでて、額にキスして、和輝やっぱりあんまり寝てなかったのかな、って思えるくらいすぐ寝ちゃって、俺しばらくこれからどうしようと思って、考えても分かんなかったから少し泣けてきて、でも泣いててもしょうがないし、って思って和輝の隣で寝て、肩が触れ合うくらい近くで寝たけど、和輝は全然起きなかった。


次の日、日曜日はいつも仕事忙しいから、早く起きたけど、和輝まだ寝てて、俺が起きたら起きたけど、こんなにしっかり寝たの随分久し振りだって。その日忙しかったけど忙しいながらも考えて、月曜は休みだから、電車に乗って和輝のとこに帰った。帰った、って言っても帰ったわけじゃなくて、一時的に戻った。戻って少しは他人の家みたいだったけど、すぐ慣れて、自分の部屋入ったらなんかまだ服とか荷物がたくさん置いてあって、こんなのみんな置いて出てっちゃったんだな。あん時はどうしようって、和輝に見付からないうちにどこかに行かないと、って思ってたから。あれから同じ服ばっかり着てたから馬鹿みたいだなって。夜遅くに和輝が帰って来て、いつも真っ暗な家に帰って来てたから、どうしたんだろ、って思ったんだって。リビングの真ん中で和輝に抱き絞められて、俺がちょっと照れて、

「少しの間だけだからね。」

って。そしたら彼は、いいよそれでも、って。俺達大きなベッドでなんだか何ごともなかったみたいに、セックスはしなかったけど、肩を寄せ合って寝た。次の日は仕事だったから、自分のスーツケースに服とか詰めて、電車に乗って職場に行った。荷造りしてる時、和輝が、

「なにしてんの?」

って聞いてたけど、あ、いつも同じ服ばかり着てるから、って言ったら、

「ふうん。」

って、さほど興味もなさそうに言ってた。でもあの男、今までの経験だと、興味なさそうに見えるほど、実は関心があるから。電車で都心から郊外に通うというのは実は賢い選択で、ラッシュアワーを避けることができる。おまけに俺の選んだ最高の隠れ家のつもりだった結婚式場、実はここから乗り換えなしで行けるという、なにが隠れ家なの?って感じ。アパートに荷物置いたら、また空のスーツケース持って帰った。あんまり家賃無駄にするのもなんだから、まあ、ひと月くらいこっちにいたら帰ろうかな、ってその時は思ってた。和輝その日も帰って来るのが遅くて、具合悪いのに、ってやっぱり心配で、でも眠くなって寝ちゃって、和輝が帰って来て、コートも脱がないで俺の隣に倒れるように横になって、お酒のにおいがした。俺がコート脱がして、ジャケット脱がして、パンツのベルトはずそうとしたら、俺の上に乗ってきて、ディープ・キスされた。お酒のにおいはきつかったけど、話しを始めたらそんなに酔ってないって分かった。清夜、お前なにしに帰って来た?自分の荷物運ぶため?って。

「俺、ここにはずっといられないよ。言ったでしょ?」

「じゃあ、なにしに来た?」

「和輝のことが心配だったから。」

「お前がまた出てったら、俺もう一回お前を失うの?」

「だから、ちゃんといい人さがして。」

「それはもういい。俺、お前以外の誰もいらない。」

「ゴメン、和輝。俺のせい、全部。」

「俺、お前があの男と一緒にいると思ってた。でもそうじゃなかった。ならどうして帰って来ない?」

「和輝に悪いことしたから。」

「俺に悪いと思うんだったら、ここにいて。俺と一緒に。」

「もう決めたことだから。」

「俺、お前を失うのはもう耐えられない。明日の朝、俺が寝てるうちに、カギ置いて出て行ってくれないか?荷物は全部あそこに送ってやるから。」


和輝は自分がそう言った通り、俺のものはどんな小さなものまで全て送って来た。まるで俺のいたにおいも全て消そうとしてるみたいに。俺はこれでよかったんだ、って毎日自分に言い聞かせて。春になったら、結婚式場も忙しくなって、和輝に対する罪悪感も少し過去のことになってきて。その日は平日でまた近所の奥様方の不倫話しを散々聞かされて、夜、帰ろうとしたら、アシスタントの子が、

「あれ、清夜さん指名で予約入ってますよ。男の人。」

って言われて、見たら、沢口和樹って。時間ピッタリに来て、

「清夜。元気だった?」

って、優しい口調で。和輝は痩せて、顔色も白っぽくて、

「和輝、痩せたね。大丈夫?」

「しばらく入院してて。大分いいんだけど。」

「髪、伸びたね。うんと短くする?」

「そうだな。」

和輝は、俺が髪切ってる間中、鏡に映る俺を見てて、目が合ったら微笑んで、

「清夜は彼氏できたの?」

「ううん。和輝は?」

「俺は入院してたんだぞ。」

って、笑って。そのあと、一緒にレストランに行って、前みたいに俺が必死に食べてるとこうれしそうに見て、俺、なんだか知らないけど、涙が出てきて、和輝が、

「泣きたいのはこっちの方だぞ。」

って。で、俺が、

「和輝どのくらい入院してたの?」

「一か月くらい。」

「え、そんなに長く。」

「あっという間だったけどな。」

「言ってくれればよかったのに。」

「お前が側にいたら、余計悪くなる。」

「どこが悪かったの?」

「自殺未遂、かな?」

「えっ?」

「しばらく眠れなかったろ?それで色んな医者からもらった薬全部飲んで、でもな、人間の生きようとする力はすごいぞ。だって俺自分で救急車呼んだもん。意識なくなる直前に。でもな、俺そのことがあって、俺ってやっぱり強いって分かって、安心したら大分眠れるようになった。入院してたのは、まだ多少意識に混乱があって。自殺願望はなかった、その時以外は。あ、でもあの時だって自殺願望はなかった。ただ眠りたかっただけ。」

そして、俺うっかりデザートにアイスクリームたのんじゃってて、なんかそんな深刻な話し聞きながら、アイスクリーム食べるの不謹慎な気がしてきて、じーっとしてたら、和輝が、

「ほら、解けちゃうぞ。」

って、そして俺が全部食べるの待って、俺の目を直球で見て、

「すぐ返事しなくてから、俺んとこ戻って来いよ。もう追い出したりしないし。考えてくれよ。」

で、俺がまたしばらく泣いてて、そしたらまた、

「泣きたいのはこっちの方だって言ったろ?」

って、笑って、

「俺な、引っ越そうと思って。なんか高層マンションに住むの疲れてきて。お前が帰って来るの待って、それで二人で決めよう。」


で、次の土曜日、和輝が来て、その時はピカピカのジャガーの新車に乗ってて、店長が異様な興奮に包まれ、

「あのボルボどうしたんですか?」

で、和輝が、

「あれは売った。それでまだジャガーには乗ってないな、って思って。気分転換にいいかな、って。」

あとで店長が、あれはジャガーの新車の中で一番高いやつなんだって。そしたらその日、いつもより大分高級なレストランに連れて行かれて、もうその頃はちゃんとした服をいつでも着られるように用意していたから、それは大丈夫で、で、また俺、必死に食べて、デザートも食べ終わった頃、レストランの奥から和輝が大きな花束を持って来て、俺に、

「誕生日おめでとう。」

って、キスしてくれた。その花は俺の大好きなバラで、花弁の表が赤で、裏側が白いので、初めて見た時ビックリしたバラで、俺は一気にお姫様気分で、和輝にもそれを言った。

「こんなにたくさんのバラなんて、一気にお姫様気分。」

「お花の中になにか入ってるよ。」

って、見たら小さな箱があって、開けたらダイアモンドのピアスのイヤリングで、俺の好きな立て爪ので、あのダイアモンドのリングとお揃いの感じで。そのあと、また俺のアパートに行って、

「どうした、清夜?眠くなった?」

俺が目を閉じてるから、

「ううん、ちょっと酔った。」

「グラスにワインいっぱいしか飲んでないのに?」

「バラに酔った。深い香り。」

「ここまだカーテンないんだ。」

「二階だからのぞかれないし。」

俺は和輝のバーバリーのコートを脱がして、アルマーニのスーツとシャツを脱がして、身体を見たらやっぱり痩せてて、まだ、っていうか購入の予定もないけど、ベッドも椅子もカウチもなかったから、壁を背もたれに、マットレスに座らせて、痩せた肩を抱いてキスした。和輝は自分で自分のくちびるを手でなぞって、俺が今したキスの余韻に浸っているみたいに見えた。だからもう一回さっきと同じキスをした。それから頬へ移って、首の横をなぞってり、胸を通って、そしたら俺が大好きだった、あんなに厚くて頑丈な胸が大分痩せてしまったように見えて、

「体重どのくらい減ったの?」

15㎏だって。」

「なんだか違う人になったみたい。」

「それって、いいこと?」

「いいわけない。」

いつもならその胸から乳首に行くんだけど、そこで和輝は俺の手を取って自分のペニスに触らせた。それは硬くたってて、俺が着ていた服を全部脱いで、彼は俺をうつ伏せにして、俺のケツにキスして愛撫して、俺に入れたそうにしてたから、彼のしたいようにさせて、俺は彼のモノを俺の中で感じて、俺が少し声を出したら、

「清夜の声、もっと聞きたい。」

って、もっと深く速くしてきて、俺はつらいくらい感じてたけど、和輝の息づかいは激しかったけど、でもなかなイかなくて、でもイって、その時俺の背中に抱き付くみたいに倒れて、汗ばんだ身体がセクシーって言ったら、彼は笑って。次の朝、俺、一回死にそこなって怖いものなくなったから、って前置きしてから、

「清夜、お前いつ帰って来る?」

って。


その日、和輝にもらったバラを二十本くらい職場に持って行って、お客さんが入って来てすぐ見えるとこに置いて、それ眺めながら一日和輝とのセックスのことを考えていた。二十本くらい抜いても全然ボリュームの減らないほどのブーケで、結婚式場にくっ付いてる花屋の女性が髪切りに来たんで聞いたら、あのバラ100本でたぶん七万くらいだって。もし数足りなくてオランダから直輸入とかになったら、もっとすごいって。和輝ってなんで俺にそんなに金使うの?俺、高いものとかあんまり興味ないの知ってるのに。あのピアスも、宝石屋の若者に聞いたら、

「これはベンツとはいかないけど、二つ合わせてトヨタのプリウスの一番高いの買えますよ。」

で、また、ボルボの彼とはいつ別れるんですか?って聞くから、

「ちなみに今はジャガーに乗ってるよ。」

って、言ったら悔しそうだった。


和輝から連絡があって、いい物件があったから決めたいんだけど、専門家にはもうお墨付きもらってるんだけど、誰かに見せてから決めたい、って、俺に見せてから、って言わないで、誰かにって言うところがもしかし て巧妙?って思ったけど、なるべく和輝の役に立ちたいって思ったんで、行ってみることにした。そこは都心にある洋館。百二十年経ってるって。広い庭があったり、暖炉があったり、ステンドグラスがあったり、細かいところまで装飾がしてあって、床まで届くようなドレス着たお姫様が住んでたみたいな家。あ、でもちょっと幽霊出て来そうな感じでもある。子供のいないお医者さんの夫婦が住んでて、手入れはばっちりだって。その方達はもっと暖かいところへ引っ越すんだって。

「君はどう思う?」

って、和輝に聞かれて、俺が、

「幽霊出るんですか?」

って、不動産屋さんに真面目な顔で聞いたら、不動産屋さんも真面目な顔でオーナーさんに連絡取ってくれて、幽霊出るけどみんないい人達だから大丈夫だって。和輝はずっと笑いをこらえてて。


そのあとお礼にって、一緒に食事に行ったんだけど、和輝が、

「君にとって大事なのは、幽霊が出るかどうか、ってことに尽きるんだ。」

「そりゃそうですよ。」

「そうなんだ。」

「毎日のことですから。」

「え、なにが?」

「幽霊出るの。」

「そうなんだ。」

「そう。でもよかったじゃない。」

「え、なにが?」

「いい人達で。」

「え、だれが?」

「幽霊の人達。和輝そうやって笑ってますけど、その内きっと俺に感謝する。」

「なにを?」

「だから、幽霊達の人格を未然にチェックしておいて。」

「幽霊でも人格って言うんだ。」

「そうですよ。」

「ほんとに?」

「会ったら聞いてみれば。」

「え、だれに?」

「だから、その幽霊の人達に。どんな人が出たか教えてね。友達になれるかも。」

「ま、君だったら友達になれるかもな。」


それで和輝、そのあと何件か見たらしいけど、あんなに敷地の広いとこなんて新しい住宅にはなくて、幽霊に対する期待もあったのかは知らないけど、その古い家に決めたんだって。でも和輝には全然幽霊見えなくて、俺は遊びに行くたびになんかしら見えて。

「今ドレスの裾が寝室の方へ入って行った。」

「顔は見えない?」

「ドレスの裾だけ。」

「今の人とは友達になれそうか?」

「まだ分からない。今の人はね、ここのお手伝いさんだった。」

「じゃあ、ちょっと掃除とか手伝ってもらえないか聞いといて。」

「分かった。」

で、俺、気付いたんだけど、和輝と俺がセックスしてると、必ず何人かのぞきに来る。で、俺、言おうかどうしようか迷ったんだけど、和輝にそれを言ったら、

「え、本当?」

「うん。きっと珍しいんだね、ゲイ・セックス。」

「なるほど。」

「でも、すぐ飽きると思うよ。」

それから俺、変なことに気付いて、俺って人が見てると燃える体質なんだ、って和輝に言ったら、彼はただ爆笑してたんだけど、なん人か観客のいる晩、俺がほんとに燃えちゃって、和輝が自分のシャツのボタンをはずしてたんだけど、それも待てないくらいの燃え方で、まだシャツ脱いでない和輝のケツ向かせて入れちゃって、俺のそこまでの燃え方に彼も燃えたみたいで。


別の日、和輝の寝室が庭に面してるんだけど、その日暖かくて、二人で庭にいて和輝が俺の膝枕で目を閉じてて、で、俺が和輝の髪をいじってて、もう切った方がいいね、って言ったりとか。そのうち二人共したくなって、ベッドの上で二人共裸になって、風が気持ちよくて和輝が俺のにフェラしてて、男の子の幽霊がのぞいてたから、枕投げたら、逃げってった。和輝が、

「なにしてんの?」

「なんか未成年には見せたくないな、って。」

「未成年の幽霊?」

「そう、男の子。すぐ逃げてったけど、興味あんのかな?ゲイ・セックス。」


何度か幽霊たちにジロジロ見られながら、和輝とホットなセックスをしてるうちに、たった一回若い男をファックしただけの過ちの罪の意識から回復して、やっと俺はボロアパートを解約して、和輝の熱い胸に戻って来た。仕事は同じ。前のところに電車で通っている。今、四月で、五月、六月と本物のウエディングシーズン。忙しいと俺必ず身体こわすから、和輝にしっかり見張られている。食べてんのかどうか、とか。和輝自身は、よく寝られるようになって、体重もかなり回復した。なんどか和輝に、どうして帰って来る気になってくれたの?って、聞かれたから、

「あのね、あの異次元のモノ達に触れているうちに、なんかいろいろどうでもよくなってきて。」

和輝は全然異次元のモノ達が見えない人だから、なんか納得はしてないみたいだけど、俺のことは毎日お姫様みたいに大事にしてくれる。頭が痛いと言えば、大丈夫?ってずっと治るまで側にいてくれる。でもよく考えてみたら、俺より和輝の方がよっぽど浮気する可能性が高い。宝石屋の若者は今でも、

「別れた?まだ?」

って、聞いてくる。


和輝の社交界。俺が和輝と一緒にいなければ俺には全然関係ないような人達。パーティーがあったりとか、ビジネスの集りとか、和輝は俺をエスコートしてそれこそ俺のこと、和輝の大切なお姫様みたいに色んな人に紹介してくれる。そういう時は俺もカッコいいスーツ着て、パリッとしたシャツに、流行のネクタイ。和輝に手を引かれて、モダンな都会のハッピーなゲイ・カップルとして見られてて、何回かビジネス関連の雑誌にも写真出たりして。俺、何回説明されても、和輝がどんな仕事してんのか分かんないし、こないだ株のディーラーのパーティーに行った。でもそれが和輝の仕事とどう関係しているのか全然分からない。色んな人が和輝の彼氏はイケメンだって言ってくれて、和輝も俺のこと鼻が高いみたい。そうすると俺もよかったと思う。こないだから税務署の監査が入るかもしれないって、俺はそれがどのくらいヤバいことなのか全然分からないし。でもそれは回避したらしい。その時の和輝の喜びようはすごかった。よっぽどヤバいことしてんだな、この男。


こないだなんかの財団のなんかのパーティーがあって、その時はマジでフォーマルな席で、和輝はタキシード着てたけど、俺はタキシードは着なかったけど、和輝にいろいろ聞いてスーツとかネクタイとか決めて、そしたら和輝がどっかからあのダイアモンドの指輪出してきて、それはめてパーティーに出たんだけど、慣れてないから、俺そこにいた人達全員が泥棒に見えた。そのパーティーでは、外国から来た人もたくさんいて、立食だったんでしょっちゅう俺、外国人に囲まれて、俺、全然英語分かんないし、俺、もういい年なのに、プリティー・ボーイとか言われて、一緒に写真撮ろうとか、ダイア見せてくれとか、見世物か、俺、みたいな。和輝はどこかで必ず俺のこと見張ってて、他の人と喋っている時でさえ、変な男が来るとすごい速さでやって来て、俺の手引っ張って、

「変なのが来たら指輪見せろって、言っただろ。」

でもそんなこといつも忘れてて、それで帰り際和輝が、

「今年は断れそうにないぞ。」

って、言って、なにかな、って思ったら、日本で国際的なバイオリンのコンクールがあって、毎年色んな国から来るんだけど、ホスト・ファミリーやってくれ、っていうのを毎年上手く断ってて、そこの人達に家買ったのばれて、練習は音大でやるから寝るとこだけって言われて、家は一日中誰もいませんし、食事の世話もできませんよ、って言ったら、一週間だけベッド貸してくれればいいって。でもそんなの全然ウソで。


ブラジル人だって、それだけ言われて、俺が成田まで迎えに行った。俺の中でブラジル人っていうイメージが全然定まってなくて、それにしてもアレックスは、全然予測してない感じで、背が高くて金髪の長髪だった。バイオリンの他にほとんど荷物ないし、俺全然英語分かんないし、って、ブラジル英語じゃないか?成田の観光案内に行って、下らないことたくさん聞いてもらって、お世話になってしまった。彼、アメリカ暮らしが長いって。なんで金髪なの?ウクライナ系のブラジル人だよ。なんでタキシードなんて持って来てんの?それは決勝で着るから。なんでこんなに荷物少ないの?服は日本で買え、ってお金もらって来た。年いくつ?二十才。どんな服買いたいの?Shibuyaに行きたい。その髪俺に切らせて、ダメ。お願い、ダメ。そしたらその観光案内にいた若い女性が、決勝に残るつもりでいらしたんなら、ほんとに決勝まで残ったらお礼に、って切らせれば、って、そしたら分かった、って。俺も和輝も忙しかったから、渋谷にも勝手に行ってもらって、食事も洗濯とかも全然やってあげないで、でもその子親元離れて長いから、よかった。和輝は海外逃亡に備えて英語勉強してたから、まあ、それもよかった。でもアレックス一週間どころか十日過ぎても全然帰る様子がないから、和輝が財団の人に聞いたら、一週間というのは普通は予選で落ちて国に帰るからそういう意味で、アレックスはまだ勝ち残ってるからまだいるんだって。それは結構珍しいから、よかったですね、とか言われたんだって。俺達、最初からゲイ・カップルなの隠さなかったから、キスもしてたし、ハグもしてたし、カウチで抱き合ったりもしてたし、多分俺達の声寝室から漏れてただろうし。


アレックス練習に通ってるとこ大分遠そうで、あろうことか和輝、彼のために一番小さい寝室に、防音設備付けてあげて、そしたらもうどこにも行かなくてよくなったから、一日中練習してて。そしたらアレックス、いつも部屋に観客がいる、って言い出して、和輝がそれゴーストだよ、って言ったら、知ってるって。自分の育った家にもいたから。でも若い男の子だけは時々邪魔する、って言うから、俺がその子は枕投げたらどっか行くよ、って教えてあげて。で、とうとう彼がタキシード出してきたから決勝でしょ?髪切らして、って言ったら、まあさすがに防音設備まで作ってもらっちゃったし、かどうか知らないけど、切らせてくれて。背中の半分くらいまであったから。先の方は日に焼けてるからグレーっぽかった、かなり短くしたら、きれいな金髪の部分だけが残って、メチャイケメン。決勝あさってだよ、緊張してきたって、今まで自信たっぶりだったけど、さすがに決勝って、そんなになるんだな。そしたら俺達もう寝室にいたんだけど、多分電気ついてたからかどうか知らないけど、ノックして入ってきて、俺達の横になってたベッドに座ってきて、しばらく和輝と話してて、和輝が、あんなに練習してたんだから大丈夫だろ?って、励まして、でもジャパニーズですごく上手なのがいるんだって、他のヤツのことなんて気にするな、って。でも考えたくなくても考えちゃう、って。俺、なに言ってるかは分かんなかったけど、泣きそうなのは分かったから、手を握ってやった。で、俺達のメイン・ベッドルームかなり広くて、ベッドも馬鹿みたいに大きくて、アレックスが俺のとなりに横になって、なんていうか、俺の身体に腕回して来て、ただでさえ髪切って別人なのに、いつも笑ってて、こんな弱気なとこ見たことないし、少しびっくりしてると、なんか手が冷たいから、寒いのかな、って思って俺のかけてるブランケットに入れてあげて、そしたら俺の隣で目を閉じてて、そしたら和輝が俺の頬にキスして、それから俺の首とか胸とかにもキスして、それから口にかなり性的なキスをしてきて、俺の息が少し荒くなって、そしたらアレックスが俺の頬に触れるほど俺の顔に自分の顔を近付けて、ほんとに息がかかるほど。でも和輝はなにも言わなくて、でもなんか考えてるみたいに俺の目をのぞき込んで、そしたら俺とアレックスがかけてたブランケットを半分めくって、俺なんにも着てなかったから、和輝がいつもするみたいに俺の乳首にキスして、そしたら今まで俺がアレックスの手握ってたのに、今度は逆に彼が俺の手握って、そしてアレックスは半身起こして俺達のしてること見てて、そして和輝が俺達のかけてるモノ全部取って、俺のたってるペニスが二人に見られてて、俺がアレックスの顔見たら、彼も俺の方を見てて、アレックスが俺のくちびるになんか簡単にキスして、そして俺のたってるペニスを軽く握って、そしたら和輝とアレックスがキスして、俺、下から見てたんだけど、絶対舌入ってるキスで、で、アレックスまだ俺のペニス握ってて、そのまま先のとこになんか音の出る軽いキスしてくれて、和輝がアレックスになんか言って、そしたらアレックス俺のペニスを口に入れて、半分くらいフェラしてくれたら、和輝が最後までイかせてくれた。そしたら、和輝が俺とアレックスの間に入って来て、和輝はアレックスにまた絶対舌の入ってるキスしてて、俺は和輝のペニスをヤってて、そしたらまた男の子がのぞきに来たから、俺とアレックスで枕投げて、和輝がなんか笑って、そしたらアレックスが俺のヤってた和輝のを最後までイかせて、そしたら和輝がまたアレックスにキスしながら彼が着てたモノ全部脱がして、俺はアレックス、身体綺麗だな、ってボーっと考えてて、そしたら和輝が、待ってるんだから、ヤってやれって。で、俺が半分くらいして、それから和輝がしてたんだけど、いつも俺のがヤられてるから、アレックスがどんな風に感じてるか分かって変な感じして、それでアレックスもイって。それだけ。ほんとに。


次の日、アレックスがタキシード着てみたら下はいいけど上がきつくなってて、せっかくブラジルから持って来たのに。和輝のが丁度よかったら借りて。決勝で彼の姿がなくて、その代わり、あれ誰?みたいなイケメン金髪がいて、審査員は彼が緊張のあまり逃げたんじゃないか、ってウワサしてたんだって。和輝と俺は決勝だけ見に行った。アレックスは二位だったんだけど、アメリカから見に来てたエージェントにスカウトされて、あと何年かは、食っていけると言って喜んでた。


それが五月の中頃で、俺も忙しかったこともあって、兆候を見逃したんだけど、和輝、誰かに恋してる。それは確か。格好が若くなったから、多分相手、若い子。俺が家出した時あんなに帰って来い、って言ったくせに、愛ってそんなに短くて簡単に壊れるもの?って考えてたら泣きそうになってきたから、今日は早めに家を出た。日曜だったから、和輝はまだ寝てた。今度家出する時はもっと服たくさん持って出よう。俺の給料から家賃出すとほとんどお金残らないんだよな。そうだ、店長に給料上げてもらおう。そうしたら和輝どうするかな?追って来なかったらショックだよな。でも追って来ないかも。若い子に乗り換えられるなんて。今まで自分だって若いつもりでいたけど、もっと若いのに比べたら、当たり前だけど俺若くないし。いい男のつもりだったけど、もっとイケメンと比べられたらお終いだし。それに俺、和輝より背高いし、プロポーションだってそこらの男よりずっといい。でももっと背が高くてプロポーションいいヤツと比べられたら?


和輝の相手と喋った。こないだ和輝、別のスーツにiPhone入れっぱなしで出かけて、ずっと電話鳴ってたから、腹立って出てやったら、やっぱり若い男だった。和輝は?って言われたから、貴方誰ですか?って聞いたら、貴方は誰?って聞かれたから、考えたけどなんて言っていいのか分からなくて黙ってたら、和輝いないんならいいです、って電話が切れた。電話にロックかかってたから、俺に見られたら困るものがあるんですね、って思って、とりあえず一週間分の服とか持って仕事に行った。店長に掛け合って一晩だけ店に寝かしてもらった。裏にカウチあるから。夜中に和輝から電話あったけど無視して、忙しいから店に泊まってる、ってメッセージ送っといた。忙しいのはほんとだけど、その日は店長休みだったから、また勝手にここのカウチで寝た。明日からどうしよう?友達んとこに泊めてもらおう。男だと身体を要求されるかもしれないから、別にそれでも知ったこっちゃないけど、できたら女の子の方がいいな。それで仲のいいフラワーショップの女の子に一晩だけお願いした。三日目の夜にはさすがに和輝が飛んで来て、俺の休憩まで待ってて、

「なに?どうしたの?電話取った?」

って、聞くから、

「ずっと鳴りっぱなしだったから。すいませんでしたね。」

って、言ってやった。和輝それでも俺の目まともに見ようとしないから、

「さようなら。」

って言って。そしたら和輝が、

「待って、待って。」

って、俺の腕つかんで、俺がいない方が全て上手くいくじゃん、って思って、そしたら、

「いつ帰って来るの?」

「少し頭が冷えるまで。」

って、言ってやった。そしたら、

「それいつ?」

って、聞くから、自分の頭のことは自分で分かるでしょ?って、言ってやった。そしたら、

「俺の頭?」

「そう。貴方の頭が冷えるまで。」

「今日何時まで?一緒に帰ろう。」

って、言うから、

「俺がいない方が全て上手くいくじゃないんですか?」

って、思いっ切り冷たく言ったら、帰って行った。俺ももう若いのに乗り換えられたから、ひとりでしっかり生きていかないと。とか考えてたら、和輝と共通のクレジットカード持ってんのに気付いて、普段はスーパーとかでしか使わないヤツで、いいや、使っちゃお、って思って、でもこれ使ったらどこに泊まってるかはバレるな、って思ったから、毎日違うとこに泊まってた。で、そのうち、こうなったらこのクレジットカードでどのくらいキャッシュ降ろせるのかな、って調べたらなんか気の遠くなるような額で、それはヤバいと思ったから、部屋借りられるくらいもらっといた。今回はあっちの非だから、遠慮することないと思ったんだけど、俺、気が小さいから。その後和輝からは全然連絡がなくて、最初はなかなか頭が冷えないんだな、って思ってたんだけど、それからやっぱり乗り換えられたんだなって。日本て男同士でなんで結婚できないんだろう、っていつも思ってたけど、なんだ、結婚できなくてよかった。で、クレジットカードのキャッシングのリミット調べたら、前と変わってなくて、手切れ金に全部もらっとこうかな、って考え始めて、銀行行って、これ全部俺の口座に入れてもらえますか?って聞いたら、即座にいいですよ、って言われて、どのように運用されますか?って聞かれちゃって、あ、それまだ分かりませんって。それでもうそのカード破棄してもらって。で、ここが俺の気の小さいところなんだけど、高跳びもできたのに、俺仕事辞めなかったから、馬鹿みたいに。まあ、どうせ和輝に興信所使われたらまたすぐ見付かっちゃう、って思ったし。仕事終わった頃、和輝が来て、

「お金使っていいけど、それどうするつもりなの?」

「手切れ金にいただきました。どうもありがとう。」

そしてまた、一緒に帰ろう、って言われたけど、

「頭は冷えたんですか?」

って、聞いたら、黙ってるから、なんかここがまた俺の気の小さいとこなんだけど、俺の大好きな和輝いなくてひとりで生きてなにが楽しいの人生、って思ったら、泣けてきそうになって、でも若いのに乗り換えられて泣くのも惨めだったから、どうしよって、考えても分かんなくて、でももう冷めてる男どうしたって無理だし、金はもらったし、さよならしかないな、って。万が一ほんとに泣きそうになっても見られないように、なるべく暗い道歩いて、

「さようなら、和輝。」

って。

「清夜、どこに住んでんの?」

「まだ分からない。俺のことは心配いらないから。」

で、また、

「さようなら、和輝。」

で、和輝、しばらく黙ってるから、多分今の男と俺と比べてんのかな、って思って、でも比べるほどもなく俺のことはもう全然どうでもいいのかな、って。で、俺すごく嫌みなモードに入ってきて、

「じゃ、和輝、その子と末永くお幸せに。」

って冷たく。なんかその時突然、そうだ、和輝やっぱ若い子好きなんだよな、だってアレックスの時だって舌入れてたし、ってなんか急に馬鹿みたいに思い出したりして。そして、そうだそういうジャガー好きとか、でっかいダイアモンド好きとか、和輝はそういう子と一緒になればいいだ、って思って、そのうち、あれっ、俺今日どこに泊まるんだっけ、って、あんまり毎日違うとこに泊まってたから、なんか頭混乱してきて、道歩いてても、あれって。そしてよく考えたら、なんだ俺まだ決めてなかった、今晩どこ泊まんのか。そしたら和輝が、

「どこ行くの?」

「さあ?」

「どこに泊まってんの?」

「さあ?」

「なんでそっちの方に行くの?」

「さあ?」

そしたらなんかその暗い道が急に明るい駅に出て、そこは今まで来たことないとこで、駅前に交番があったから、そこに入って、

「あの、あそこにいる人があとからついて来るんですけど。」

って、言ったら、和輝、すぐあきらめてどこかへ行ってしまった。よっぽど警察に捕まるとヤバいことでもあるんだな、この男って。


で、その時が六月で、馬鹿みたいに忙しくて、結局職場の近くで、こないだより少しましなアパートに住んでて、和輝は毎週ではないけど、またいつかのように土曜日の夜現れて、一緒に食事をした。俺は、

「無理に俺に会いに来なくていいよ。」

って、言ったんだけど、でも清夜に会いたいから、って。

「でも、今の子に悪いでしょ。」

それ自分で言って、まるで自分の心臓えぐるようで、やっぱり俺まだ和輝のこと愛してる。

「清夜。」

和輝が俺のこと呼ぶ声は、いつも優しくて深い、俺の大好きな声。そしたら俺、

「俺、やっぱりまだ和輝のこと愛してる。」

って。それから俺、

「ゴメンね、こんなこと言って。気にしないで。」

そして俺にしてはめずらしいことに、デザートも食べずに、レストランを走って出た。俺が自分のアパートに着くと和輝のジャガーが先に待ってて、和輝が、清夜、なにがあったかちゃんと言うから、って、和輝は俺のあとから部屋に入って来た。それが和輝がここへ来た初めての時で、なんか彼、周りを見回しながら、相変わらずベッドもカーテンもないんだね、お金使ってもいいのに、って笑って。俺が、

「帰って、寝るだけだから。」

「ゴメン、清夜。さっき俺のことまだ愛してくれてる、って。俺、馬鹿なことしたんだけど、言い訳じゃないけど、俺も本気じゃなかったし、向こうも本気じゃなかった。あいつが周りにいたのもひと月くらいで、早く言いたかったけど、浮気したのはほんとだし。もう清夜が俺のこと愛してない、って思ってたし。」

それから和輝が言ってたけど、俺があの若い子と電話で話した時、もう別れ話ししてたんだって。それから和輝ちゃんと俺の目を見て、

「清夜、俺、清夜のこと愛してる。」

って、言ってくれて、俺すごくうれしくて、なにがあったとかどうでもよくて、なんてほんとはそんな訳ないけど。そのあと銀行行ってよく見たら、その月の利子が俺の給料より多くて、これ持ってたら働くのバカバカしくなるな、って思って、和輝と相談して、俺名義の口座に入れて和輝の会社で運用してもらってる。もう男なんて信用しないんだから。これがあれば生活なんとかなるし。


七月になって、さすがに結婚式やる人減ったんだけど、それでもやっぱりいて、それに近所の奥様方もたくさん来て、で、ここ男の美容師が二人いるから、男性の客も増えてて、もうどんなに誘われても客と付き合うのヤバいから断ってて、女の客もやっぱり断ってて、和輝に言って安いダイアのリング買ってもらって、ほんとに安いんでいいから、って、目的それだけだし、って言ったんだけど、和輝の給料の三か月分だと、こないだのみたいになるから、じゃあ、俺の給料の三か月分くらいのを買ってもらって、仕事中でも爪に引っかかったりしないようなのを、一緒に店に行って買ってもらった。そしてうれしくて、ずっとはめて見てたら、和輝が、

「俺がでっかいダイアモンドあげた時より、ずっとうれしそう。」

って、すねて笑って。

「だって、あれしてると、周りがみんな泥棒に見えるんだもん。」


で、その指輪をしてるとさすがに誘ってくる人は減ったけど、ひとりだけ、全然そんなの気にしてなくて相変わらず誘ってくる客がいて、その人、慎士さんっていうんだけど、これ彼氏に買ってもらったんですよ、って指輪見せても全然動じなくて。普通に若くて、普通にイケメンで。慎士さんが来ると店長にやってもらってたんだけど、そのうち俺のこと指名して来るようになって。和輝にその話しをしたら、じゃあ今度その人がいる時間に、俺がジャガーで迎えに行くよ、って。そしたら俺、そんな手間暇かけなくていいよ、って言ったんだけど和輝、どんなヤツか見てみたいとか言って。そしたら慎士さんの予約入ったから、って和輝に言うと、なんか和輝、本気みたいで、ほんとに行くからって。で、いつも彼、仕事終わって来るらしくて、でもまだ俺の仕事終わるような時間じゃなくて、そしたら和輝、じゃあ俺、そいつのあとに予約入れるからって。で、俺が慎士さんの髪切ってる間、店長と和輝が喋ってて、ジャガーどうですか?って、店長が聞いて、和輝がジャガーいいんだけど、やっぱりベンツの新しいの見たらあっちの方がいいかな、なんて話してて、で、時々、清夜、クリーニング出しといてくれた?とか、一緒に住んでるアピールしたりとかしてんのに、慎士さん全然意に介してなくて、ずっと鏡の中の俺を見てて、今度どこどこのホテルのランチ食べに行きませんか?とか誘って。で、俺がゴメンねー、俺の彼氏、他の人と出かけるの嫌がるから、って俺が、

「ねー、和輝?」

って、言ってんのに、和輝があとで言ってたけど、あいつはよっぽどの馬鹿か、よっぽど度胸があるかのどっちかだ、って。結論としては、その半々らしいけど。それで和輝、えらく感心してて。そしたら慎士さん、和輝がそこにいるのに、じゃあ今度、俺が清夜さんの彼氏になりますから、そしたら、ランチ食べに行きましょう、だって。で、別に俺、頼んだわけじゃないのに、和輝、慎士さんのこと調べたんだって、そしたら和輝と同じ不動産関係で、色んな資格持ってて、で、なんと和輝、慎士さんのことリクルートして、清夜には絶対近付きません、って証文書かせて、自分の会社で働かせてるんだって。慎士さん給料倍になって、でも俺に近付くとクビになるから、もう俺のお客さんじゃなくなって。今でも残念だ、清夜さんあんなに素敵なのに、って言ってるらしい。


八月になって暑さが続いて、毎日恨めしい晴天が続いて、俺も和輝も相変わらず忙しくて、セックスはしてたんだけど、ある朝起きたら和輝が、ベッドの上の俺の足見て、

「お前の足、長くなった。」

「そんなわけないだろ。」

って、そん時は笑って終わったんだけど、それ実は細くなったから長くなって見えたんだって。なんとか都合つけて例の毎年音楽のコンクールやってる財団のパーティーに行ったんだけど、アレックスがいた時、和輝が部屋に防音設備を付けたというのがなぜかバレていて、来年もお願いしますね、とか言われて、来年はピアノだから、って。ピアノないけど、和輝のことだから、きっとピアノ買うな。入賞者が出た家は人気が高いんだって。パーティーで食事になって、俺が食べ物を細かくナイフで切ってて、実は全然口に運んでない、っていうことに和輝が気付いて、

「清夜、なんで食べないの?」

「食べてるよ。」

和輝は俺の働いてる結婚式場に、レストランとか、カフェとか、すぐ近くにファミレスも、コンビニもあるから、なんかしら食べてると思ってたんだって。俺が自分で食べてないのに気付かなかった、っていうのがヤバいって、病院に行って点滴。体重増えて食べられるようになるまで、仕事休みもらって、店長大変だったみたいだけど、清夜がいなくなったらもっと大変だから、って。体重が下降から上昇に転じたから仕事に復帰したんだけど、和輝は自分のヘア・サロン持って、マイペースで仕事すれば?って。でも俺なにかを経営するのって興味ないし。今の仕事は好きだけど、結婚式場で、大分ブライダルの仕事慣れてきたし。そしたら和輝、

「じゃあパートにすれば?」

「あいた時間なにすんの?」

「俺のワイフになればいいじゃない。」

「ワイフってなにすんの?」

「俺の面倒見るの。」

「ふーん。興味ない。」

「興味ないんだ。」

「和輝には興味あるけど、面倒見るのはあんまり興味ない。」

「そう言えば、あのお手伝いさんの幽霊は、家事手伝ってくれるって?」

「あのね、やってもいいけど、お給料はちゃんと欲しいらしいよ。」

「お金なんてどうすんの?」

「なんかね、みんなでギャンブルする時に使うんだって。」

「いくらぐらい欲しいんだって?」

「小銭がちょっとあればいいらしい。」

「へー。」


「清夜、お前また体重減った。」

「え、なんで分かんの?」

「俺、こうやってお前に入れてると、ケツの骨にぶつかる。」

その時、和輝は俺のケツヤってて、ケツの肉ないから痛いって。えっ、大事な俺の男にそんなこと言われて、俺ちょっとショックだったけど、でも俺としては食べてるつもりだったんで、和輝が、

「じゃあ、今朝なんか食べた?」

「憶えてない。」

「じゃあ、お昼は?」

「食べる暇なかった。」

「じゃあ、帰ってからは?」

「なんか食べた。」

「なに?」

「憶えてない。」

「お腹空かないの?」

「分からない。」

「また病院に行く?」

「行きたくない。」

「なんで?」

「仕事休みたくない。」

「じゃあ、食べる?」

「分かった。」

それから和輝は俺のことしっかり見張ってて、三食ちゃんと食べてるか、職場にまで電話してくる。やっと一日三食、食べる習慣がついて、今までなくなってた、空腹感も満腹感も出てきて、食べる量も少しずつ増えて、その時まだ八月だったから、水分も取ってて、でもなにこの食べるの忘れる、食べられないっていうの?普通の人ってほんとに一日三食も食べてんの?食べなくてもお腹空かないし、何日か食べてないと、なんていうか、恍惚感があって、気持ちがいい。でも体重減らしたいわけじゃない。和輝にケツの肉なくなったって言われて悲しくなった。でもまた恍惚感なんて言うと、和輝に心療内科とかにぶち込まれそうだな。和輝から電話、

「清夜。」

「はい。」

「今日休みでしょう?」

「うん。」

「お昼食べた?」

「うん。」

「なに食べた?」

「え、っと。」

「なんで考えてんの?」

「和輝いつ帰ってくんの?」

「まだ帰らないよ。晩御飯なに食べるつもり?」

「これから考える。」

「冷蔵庫開けてみて。」

「いろいろ入ってるね。」

「昼食べなかっただろ?」

「なんで?」

「今、初めて冷蔵庫開けただろ?」

「そうでもない。」

「なるべく早く帰るから。」


和輝が帰って来て、ドレッサーに置いてある、こないだ買ってもらったリング持って来て、どうしてこれずっとあそこに置いてあんの?って。俺が少し下向いて黙ってたら、ちょっとはめてみて、って。そしたらもうサイズ大き過ぎて落ちそうなくらい。

「どうして食べないの?」

「食べられない。」

和輝の声、責めてる声じゃなくて、いつもの保護者が子供に言ってるような声だったんだけど、涙が俺の頬を伝って落ちてきて、やばいな、泣いたりして、病院に連れてかれるかな?明日仕事だし、って、まだその時仕事行くこと考えてて、和輝が食べるモノを俺の口に運んでくれて、ため息つきながらそれを噛んで。

「清夜が病気になったら、俺、すごく悲しい。俺が病気になったら、清夜も悲しいでしょ?」

って、当たり前のことを黙って聞いてた。和輝みたいに食べ物を俺の口に運んでくれるような男、絶対いないな、って思う。和輝のワイフになる?でも俺の夢は?自分で決められない、っていうフラストレーション。遂に俺、和輝に、俺の狂気を告白。

「俺ね。食べないと気持がいい。」

「え、どういうこと?」

「なん日か食べないと、恍惚感みたいなのがあって、気持ちよくなる。」

次の日に病院行ったけど、入院はしなかった。和輝は一緒に来てくれて、なんかドクターにいろいろ質問してた。その日も暑かったし、疲れてたし、俺、自分のことに興味なかったから、全然聞いてなかった。薬は出なかったけど、栄養ドリンクみたいなのを勧められた。これだったら職場でも冷蔵庫入れといて飲むだけだし。和輝にありがとう、って言った。仕事忙しいのにゴメンねって。そしたら、和輝、

「俺が病気になったら、清夜も助けてくれるだろ?同じことだよ。」

って、夕べと同じこと、また言ってた。今日は仕事休んで家にいるつもりだったけど、午後から仕事に行った。家でやることなかったし、家にいると、なんか焦燥感?強迫観念?みたいなのがひどくて。考えたくなくても、考えちゃうみたいな。和輝には怒られた。和輝は店長と話して、ちゃんと食べてるか見張ってるように、って。結婚式場のレストランで、夜はしっかり食べた。なんか、チキンとサラダ。ヘア・サロンの閉店までいて、帰った。和輝は俺の顔じーっと見て、俺また親に叱られてる、悪いことした子供みたいな気分になって、下向いちゃったけど、そしたら和輝俺のこと抱いて、キスしてくれた。俺、全然聞いてなかったんだけど、ドクターの言ってたこと、和輝に聞いたけど、セクシャル・マイノリティー、ってウツとかになりやすいから、よく気を付けてあげて、って言われたんだって。そうなの?俺、そういうマイノリティーとかあんまり意識したことない。俺って恵まれてる?職業柄?和輝に守られてるから?和輝と一緒に住んで、セックスして、幸せで。


九月になっても暑いし、こんな時に結婚式やるヤツもいるし、でもこないだウエディングのヘアーで、俺のこと指名してくれた人がいて、なんか、俺その人の友達を前にやってて、そのお客さん、それが可愛い、って思ったんだって。それはすごくうれしかった。技術では店長にかなわないから、まあ、たまにはそういうことないとね。和輝は俺が独立して仕事できると思ってるらしいけど、俺はそう思わないし、店長のこと横目で見ながら技術盗む日々。だけど、デザインとかはできるだけ勉強してる。外国のとか見たり。だからほんとはドレスのデザインの勉強できたらな、って思う。ウェディングドレスって、世界的に今つまんない。早くダイアナ妃みたいなあんなフリフリしたヤツに戻んないかな。ノースリーブにベアショルダー。これっていつまで続くの?

店長に話したら、確かにドレスは80'sの方が面白かった、でも、ドレスがシンプルだから、ヘアーに凝りたい、っていうこともあるじゃない、っていう店長の意見。なるほど。こないだ俺がベリーショートの女性のウエディングやって、店長がその写真、店に飾ってくれるって。初めて。

「ほんとにいいんですか?店長。」

「うん。これ上手くいったじゃない。ほんと可愛い。」

「ありがとうございます。」

「清夜、ここにもう半年いるんだよ。」

「早かったですね。半年。」

「清夜ほんとにウェディング楽しんでるよね。」

「お花屋さんとか、ケーキ屋さんとか、ドレス屋さんとか、みんなでコーディネイトできるでしょ。それが楽しい。普通のヘア・サロンより楽しい。」


俺っていつも好きな男の子のお嫁さんになるのが夢だった。一緒に遊ぶのもみんな女の子だったし。お花を編んだティアラを頭に乗せたり。今やってることと全く同じで、おかしくなる。女の子しか呼ばれない誕生日パーティーに、男の子は俺だけ招待されたり、それがうれしかった。


店長の呼ぶ声。

「清夜、君の王子様が迎えに来たよ。」

和輝近くにいたから、って迎えに来てくれた。和輝に店長が飾ってくれた写真を見せた。よかったね、って言ってくれた。俺の大好きな、低くて優しい声で。



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千本松由季

Author:千本松由季
東京都出身。カナダ在住。
男同士の恋愛を、様々なテーマで書いています。作品は長編を中心に50作以上。
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bridgetteyuki@hotmail.com
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©Yuki Sembommatsu 2017-2018