『Part3バロックの空に天使が山のようにバタバタしてた頃の』 - エッチでハッピー!!✩★✩ゲイ要素の高いオリジナル小説✩★✩
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『Part3バロックの空に天使が山のようにバタバタしてた頃の』

長編連載/あらすじ/光軌(こうき)は振り向いてくれない維織(いおり)に、「しばらくひとりで考えます。」という置き手紙を残して去ってしまう。維織は寂しくてオーバードースをしてしまうが、5日後に起き上がって光軌に会いに学校へ行く。

学校のカフェで維織は別れた鉄司(てつし)に会ってしまう。その時から維織はなぜか小鳥の囀りに執着し始める。それからずっと1日中、1羽の気に入ったカナリアの動画を繰り返し観るようになる。

学校で光軌にオーバードースのことを話すと、彼はすぐに帰って来てくれる。維織は光軌に絵のモデルとしてではなく、現実の人間として彼のことを考えると約束。ふたりは初めてベッドを共にする。それを聞いて、光軌の幼なじみのアネットは、また維織の絵のモデルになってくれる。

維織と光軌の所へ暁登(あきと)が訪ねて来る。彼はかつて維織の絵のモデルで、大切な恋人だった。維織は暁登が鉄司と彼のパトロンの世話になっていることを知る。それは暁登がまだ維織と付き合っていた頃からで、彼はショックを受け、光軌に暁登のことを忘れると宣言する。




Part3バロックの空に天使が山のようにバタバタしてた頃の



なんだか疲れた。頭が痛いし。こんなこと前にもあったな。今回は前より長いな。5日間意識不明か。オーバードースなんて、いい大人の男がやることじゃないよな。なんの薬飲んだんだろう?全然覚えてない。まあ、なくなったのを見れば分かるんだけど。いらなくなった薬をため込むのは悪い癖だ。不思議と毎日メールチェックはしている。どうせヨーロッパもアメリカもイースターの連休だけど。ひとり暮らしで死んでも誰にも気付かれない。身体中が痛くて鏡の前で見たら、あちこちに酷いアザがある。顔にまで。トイレにでも行きたくて動き回ってよろけてぶつけたんだろう。前回の時は理由があった。男に酷く振られて。鉄司。俺はみっともなくアイツの後を追って。今回のは、なんでか分からない。PCの履歴によると、俺はメールチェックの他に、自殺の仕方やらそういうサイトを見てることになってる。でも全然覚えてない。ということは、死にたいという気持ちはあったらしい。鉄司にすてられたあと、俺はセックスしないと眠れないという、謎の不眠症になって、色んな男とヤッてたけど、面倒くさくなって、病院に行って薬をもらって、割と早くよくなって、それでその時余ったヤツを全部飲んでる。キッチンのゴミ箱を見たら痛み止めやら、酔い止めやらの箱がすててあって、なんのために酔い止めなんて買ってあったのか全然分からない。テーブルの上に紙が置いてあって、薄っすらと記憶がよみがえる。光軌の字。なんだって?「ひとりで考えたいことがあるので、しばらく実家に帰ります。学校やバイトには行ってるので心配しないでください。」彼は俺の生徒だった。家に誰かいるのに慣れちゃって、ひとりになるのが怖かった?そうなのかな?あんな細くて若いの、全然好みじゃないし。鉄司とは、浮気されて、別れたあとでもヤっていた。俺なんかした?なんにもしてないよな?俺の人生から5日間がなくなっている。


少しは反省しようと思って、家の中を歩き回った。どういう状況でこんなことが起こったのか?あの時、俺は光軌の置き手紙を見付けて、読んで、それから絵を描いていた。モデルがいなくてしょうがないから、空をバタバタ飛んでる天使を描いていた。天使ばっかり増えても困るから、と思って筆を置いて。その辺から記憶がない。俺はスタジオに入って、その時描いていた絵をぼんやり見詰めた。ここに天使になった光軌と、彼の友達の女の子が入る予定だった。あの子、なんていう名前だった?アネット。完璧にバロックの顔をした。ふと思いついて、光軌に電話してみたが、通じない。やっぱり俺、なんかしたんだな。でもなにしたんだろう?この絵のストーリーはこうだった。アネットはお転婆な貴族のお姫様で、天使の光軌は彼女のお目付け役で。それで?それから?俺は生きてるモデルがいないとダメな画家で、表情のゆらぎみたいなものが欲しい。輪郭だけでも描こうかな、と思ってPCでこないだ撮った写真を観た。光軌とアネット。彼は斜め横の顔でアネットの方を見てて、彼女は正面を向いている。このふたりは、またこの絵のためにポーズをとってくれるのだろうか?バロックの顔。暁登もバロックの顔をしていた。俺達はローマで別れて、彼はフィンランドにたくさんいる、おとぎ話に出て来る天使達に会いに行った。


今、何時だろう?と思って時計を見た。10時だった。夜の10時。5日間意識が朦朧としていた時も、時々時計を見て、なぜかいつも10時だった。朝の10時だったり、夜の10時だったり。俺はまた寝室に戻って、テーブルの上の時計を見た。やっぱり10時だった。確かめたら時計は止まったりしてなくて、ちゃんと動いている。そういえば、その日が何曜日なのか知りたくて、何度も寝室のデスクの上のPCを見に行ったのを思い出した。それはいつも、何度見に行っても、金曜日だった。あれだけ薬を飲んでも、意識がなかっただけで、身体はなんともない。アザだらけだけど。意味もなくキッチンに行った。お腹が空いてるわけじゃないけど、冷蔵庫を開けてみた。そしたら、そこにも光軌の置き手紙があって、「フリーザーに食べる物入れときました。ちゃんと食べてください」。ちゃんと食べてください、か。フリーザーを開けると、なるほど色々入っている。そういえば光軌はいなくなる前、ここで盛大に色々広げて料理をしていた。彼が家に来る前、俺のフリーザーには氷とアイスパッドしか入ってなかった。食べながら、またちゃんと反省しようと思って考え始めた。そもそも光軌はなんでここに住むことになったんだろう?電話してきて、後ろに踏切の音がした。ルームメイトとケンカして。大きなバックパックを持って。ルームメイトっていうか、アレは元カレだよな。それで元カレとケンカして。元カレから電話があって、なんか言ってたな。光軌に好きな人ができて、それは学校の先生だって。すっかり忘れてた。俺にしては果敢に反省しようというこの気持ち。自分で偉いと思う。そもそも彼は学校の先生が好きで、ここに来た。俺はそれを忘れようと努力して、本当に忘れてしまった。あの頃はまだ鉄司とヤってたし。でも鉄司と別れられたのは光軌のお陰だ。健康的な若さ。髪を切ったら可愛いって言ったのに、ほんとに切ってもあんまり可愛いって言ってあげなかった。俺ってなに?責任取りたくないっていう、よくいる無責任な男?そうかな?そうだよな。光軌と話したいって思って考えたけど、実家も知らないし、バイト先も知らない。でも学校なら知ってる。でも会ってどうする?


朝起きて、とりあえずシャワーを浴びて、なるべく真面目な服を捜して、鏡を見たら頬に大きな赤いアザがある。こんな顔じゃあ、なんか聞かれても本当のことを言うしかないな。そう決心したら少し気が楽になった。俺が数カ月講師をやったファンシーなアートスクール。授業中で、俺は1階にあるカフェに入る。そこは通りに面していて、外部の人間でも入ることができる。でも休み時間になっても、俺は彼がどこにいるのか分からない。どうしようかなって考えてると、遠くの席でスタッフと話しをしている鉄司が目に入る。相手は女性で教師っぽい黒いスーツを着ている。鉄司か。あんなヤツがいることをすっかり忘れていた。俺はヤツから顔が見える所にいて、今更席を変わるのもバカバカしいからそのまま座っていたら、あっちが気が付いて、俺のテーブルにやって来た。

「なにしてる?こんなとこで。」

「自由だろ?ここにいるのは。」

「用がなけりゃ来ないだろ?」

鉄司がテーブルの上にあった俺の手に触ろうとして、俺はよける。

「お前のことをまだ思い出す。」

「俺は忘れた。」

キッパリ目を見て言ってやった。

「それじゃあ、仕事中だから。」

って、残念そうに帰って行った。正直、鉄司のことは何年経とうが、やっぱり俺の身体が記憶している。でも気持ちは?あの若くて細い若者。生徒達が何人かカフェの方へ来始める。そろそろ授業が終わるところかなって分かるんだけど。一生懸命考えたら、今日は月曜日だった。入口の「関係者以外立入禁止」の札を横目で見て、俺はこっそりデッサンのクラスをのぞきに行く。やっぱり。そこにはふて腐れた顔をしてヌードデッサンのモデルをしている光軌がいる。細くて骨が突き出た、退廃的な雰囲気の若い身体。さすがに教室には入れない。それに彼はポーズをとらされてるから、俺のいる廊下の方は見えない。デッサンしている生徒のひとりが、俺を見て、

「先生!」

と素っ頓狂な声を出す。部屋中の人が俺の方を見る。光軌も振り向く。教師は、

「モデルは動かないように。」

って厳かに。俺はまたカフェに戻って授業が終わるまで待つ。鉄司達はまだそこにいる。俺はまた同じ場所にテーブルに腰掛ける。今度はヤツ等に背を向けて。学校側の入口を向いて。


コーヒーを飲みながら授業が終わるまでそこにいることにする。俺の側をさっきの黒いスーツの女性が通り過ぎて、学校の中へ入って行く。俺はイヤな予感がする。俺の後ろから声がして誰かが肩に手を乗せる。

「言ってもいいだろう?なんの用で来たのか。」

「用がないと来ちゃいけないのか?」

「同じ会話を続けるのはよそう。」

この男はすぐに会話を止めたがる。いつもそうだった。頭のいい男は時間を無駄にしないとか言ってた。偉そうに。この学校の学院長はお飾りで、実権はこの男が握っている。なにをしていたのかすぐ忘れる。色んなことが頭の中を飛ぶ。あのオーバードースがいけなかったのかな?これ以上頭がおかしくなったらどうしよう?コイツが会話を閉ざしても、俺はそれには慣れてるから、それ以上なにも言わないで黙っている。

「その顔はどうした?」

「転んでぶつけた。」

それは本当だ。

「変な男と付き合ってるんじゃないだろうな。」

「よけいなお世話だ。」

「今夜家に来い。」

「断る。」

「じゃあ明日。」

「それも断る。」

「あの時一緒にいた生徒と付き合ってるのか?」

「関係ないだろ?」

とうとうヤツは俺の向かいに座る。俺はもし光軌が授業を終えて、それでもし俺に会いたくて捜してくれたとして、どこに来るだろう?って考える。鉄司の目の前で「関係者以外立入禁止」の所へ入るわけにいかない。ふたりで捜してればなんとか会えるかな?でも、もしふたり共お互い違う場所を捜してたら、グルグル回ってるだけで俺達は一生会えない。


もし俺が光軌だったらどうするか?俺はその視点で考え始めようと思う。まだ学校終わってないし、外は捜さないよな。立入禁止だから外だと思うかな?カフェにいると思うかな?まだ午前中で、でもランチタイムはまだで、休憩時間は15分しかない。その間に彼とちゃんとした話しができるだろうか?でも一体なに話すの?授業が終わるのが10時。また10時か。あと15分もある。向かいの男がなんだかんだ言ってうるさい。俺はケータイをいじる。なにかを検索しよう。突然、どこからか「ナイチンゲール」という言葉が浮かぶ。小鳥のナイチンゲール。どんな声で鳴くんだろう?って疑問に思う。聞いてみると、意外と地味な声をしている。見てくれも割と地味だし。そんなもんなんだな。ついでにカナリアの世界チャンピョンの声を聞いてみる。さすがにうるさいくらい歌いまくる。自分から歌いたくてしょうがないみたいな歌い方。機械仕掛けの小鳥みたいだ。今度の絵にはなにかしら鳥を入れようと思うんだけど、あの時代にはどんな鳥が流行っていたんだろう?「バロックの鳥」で検索したけど、なんかあんまりパッとした鳥がいない。オウムとかそういうのはいる。そうだ、あの頃あんまり天使ばっかりバタバタ飛んでいて、画家達は小鳥を描いている場合ではなかった。そこまで考えたところで、生徒達がガヤガヤとカフェに入って来た。入れ替わりに鉄司が席を立つ。生徒の中に光軌もいて、彼は俺の側に来て、俺は一瞬固まって、でもすぐ氷解して、他の生徒達がしてるようにふたりでレジに並ぶ。

「なにがいいの?」

「じゃあコーヒーお願いします。」

ここは自分でカップに入れてレジで払うシステム。俺はカップにコーヒーを注いでやる。

「あ、どうもすいません。」

「いいえ。」

俺は金を払って、ふたりで席につく。

「どうしたんですか?」

「いつ帰って来るの?」

「分かりません。」

「ひとりで考えたいって、もう考えたの?」

「まだこれから。」

「あれからもう大分経ってるよ。」

俺の中から5日間が消えてるから、ほんとはそんなに経ってるような気はしない。

「帰ってもいいんですか?」

「そりゃあそうだよ。」

「じゃあ、ちゃんと考えます。」

「そうして。」

ふたりで座って、なんとなくしばらく黙ってしまって、それで俺が、

「なにを考えたいの?」

当然な質問。

「あ、人の気持ちについて。」

「誰の?」

「それは考えてからじゃないと。」

「じゃあ考えて。」

「その顔どうしたんですか?」

「そんなに目立つ?」

「はい。」

「転んでぶつけた。」

「大分酷いですよ。」

「食べる物入れといてくれて、どうもありがとう。」

「食べてるんですか?」

「ちょっと。」

「毎日食べないと。一日三食。」

「はい。でも5日分の記憶がないから。」

そんなことを言うつもりじゃなかったんだけど。なんでだろう?同情を引きたかった?

「どういうことですか?」

「睡眠薬を飲んで、5日間寝てた。よく覚えてないけど。」

彼は今まで伏せていた目を上げて、俺の目を見て、

「学校終わったらすぐ帰りますから、ちゃんと家にいてください。」

授業が始まって、彼は他の生徒と一緒に教室に戻って行った。


俺は家に真っ直ぐ帰って、仕事も絵もなにも手につかなくて、でも頭は、なんだか知らないけどなにかの考えでいっぱいで、キッチンに行ってまた意味もなく冷蔵庫を開けた。光軌の書いたメモがそのままそこにある。フリーザーを開けてみる。食べる気はしないのは分かってるけど、少しだけ食べる。描けないのは分かってるけど、スタジオに入る。PCでまた光軌とアネットの写真を観る。俺の絵はここで止まっている。天使だけバタバタして。カナリアの鳴き声を聴いてみる。色んな動画の中から一番長いのを選ぶ。それは4時間にわたる動画で、そのカナリアが先生で、他のカナリアを教えるためのビデオらしい。カナリアって先生から教わるんだな。確かに先生だけあって声に幅がある。低音から高音まで。今この瞬間、この先生の声を聴いて勉強している生徒は、世界に何匹くらいいるのだろうか?そういうことを考えて、先生の小鳥と大勢の生徒の小鳥達がみんなで合唱してるところを想像して、ボーっと聴いているうちに1時間以上経ってて、ちょっとビックリして、そしたらもっと他のカナリアはどうなんだろうと思って、色んな動画を観始めて、また1時間が経って、俺はその中で高音部が得意な鳥をひとつ選んで、それが気に入ったからそれをずっと観ていたらまた1時間経って、そしたらナイチンゲールのビデオを見付けて、それによるとそれは朝の2時に録音されたものらしい。ほんとに夜鳴くんだな。なんでワザワザ夜鳴くんだろう?調べてみる。ナイチンゲールはメスを呼ぶために鳴くんだけど、夜の方が雑音がなくていいんだって。なんだそれだけのことか。もっと霊的な意味があるのかと思った。夜の精霊達のために、彼等を楽しませるために、夜歌っているのかと思ってた。そんなことをしているとまた1時間経ってしまう。夜の絵を描きたいな。そしてナイチンゲールに歌わせる。空にはいつもみたいに天使が飛んでいる。ふと、暁登のことを思い出す。今どこにいるんだろう?本気で捜そうと思えば見付かるんじゃないかな?一緒にローマに行く約束をして、そしたら別れ話が始まって、でもローマには行って、彼は北欧に行くって言い出して、俺は止められなくて、それっきり。でも見付けてどうするの?俺は若いモデルしか使わないし。若い時の暁登は本当にバロックの絵画にいそうな、バロックの顔をしていた。今にも泣きそうな、セクシーな顔。手を差し伸べて、泣かないように慰めてあげたくなる顔。暁登をモデルにして、俺はたくさんの絵を描いた。そんなことを思いながらPCに向かう。バロック時代、色んな種類の、声が美しい小鳥の歌を楽譜にした音楽家がいた。そしてそれをバロックの楽器、リコーダーで演奏していた。すごいな。そしたら昔、カナリアに歌を教えるためにナイチンゲールが使われた、という文献を見付けて、カナリアの先生にも先生がいたんだな、すごいなって感心して、そしたらやっと光軌が帰って来た。


いきなりフリーザーを開けて、

「ほんとだ。全然減ってないね。」

アザのある俺の顔をジロジロ見て、

「病院には行ったの?」

「いや。」

「そのアザはその時にできたの?」

「身体中が痛い。」

彼はサッサと俺の服をまくって、パンツ下ろされて、ケツまで見られて、

「あ、ここにも、ここにもでかいアザ。」

「ほんとだ。こんなとこにも。俺も知らなかった。」

「こういうの前にもあったの?」

「ああ。あの時は2日間病院にいた。」

「ひとりでこんな所に5日も倒れてて、死んだらどうすんの?」

「死にはしないのは分かってた。」

と思う。無意識のうちには。このくらい飲んでも死なないなっていう気持ちがあった。

「こんなことして。理由はあるの?」

「人のせいにはしたくないけど。」

「なに?」

「ひとりになるのが怖かった。」

でもよく分からない。覚えてないし。

「それが理由なの?」

「本当は覚えてない。」

彼はしばらくキッチンの片付けものやらをしてくれて、俺は座ってそれを見ながら、思い出そうとする。このテーブルにまだ置いてある、この手紙を読んで、ひとりになりたくないと思った。それは確かなような気がする。俺の絵の中から抜け出して。暁登みたいに北欧の天使に会いに。そしてもう二度と会えない。仕事が終わって、彼も俺の向かいに座る。自分で書いた手紙を手で弄びながら、

「もし、いなくなったのが俺じゃなくて、他の人でも同じことをしたの?」

質問の意味が分からなくて、俺はしばらく考える。もし他の人がいなくなったのだとしたら?鉄司が去って行った時は同じことをした。暁登の時は俺はもっと理解していた。俺の絵の中から抜け出して、飛びさって行った。それには納得していた。光軌の時もそれと同じ。そのはずだったんだけど。俺がいつまでも考えてるんで、

「一緒に病院に行こう。」

「行ってどうすんの?」

「こういうことがあったんです。もう2度目ですって。」

なんで彼に5日間意識不明だったなんて告白したのか?今ではそれを後悔する。帰って来て欲しかったから?

「病院には行きたくない。」

「だったらちゃんと考えて。」

ちゃんと考えるけど、覚えてないから。あの時俺は絵を描いていた。

「君の手紙を読んで、俺は天使の絵を描いていて、まるで天使達と一緒に空を飛んでいるような気分になって、すごくハイな気持ちになって。」

「お酒でも飲んでたの?」

「それはない。」

「それでどうなったの?」

「それから先は覚えてない。」

「現実逃避?」

「分からない。」

「俺がいなくなって、それが原因だったら、俺は嬉しいけど。」

今言われたことを考える。小鳥の囀りが俺の邪魔をする。カナリアとナイチンゲール。何時間も聴いていたから、残響となってまだ頭の中に響いている。彼が俺に近付いて俺の顔に触って、

「こんなことして痕になったらどうすんの?」

「痛い!」

「痛くしたから。」

「どうして?」

「人の質問に答えないから。バロックモードだから仕方ないけど。」

「なにそれ?」

「維織には3つのモードがあって、アートディーラーモードと、アーティストモードと、バロックモード。」

「最初の2つは分かるような気がするけど、バロックモードってなに?」

「今みたいに人の言うことをちゃんと聞いてない時。空想に沈んで。」

さっきから、カナリアとナイチンゲールのことを考えてるのがバレてる。

「維織、なに考えてんの?」

「その昔、人はナイチンゲールを使ってカナリアに歌を教えた。」

「そのことと俺の質問と、どういう関係があるの?」

「今朝、学校にいた時からそのことを考えてる。」

「学校に来てくれた時は嬉しかった。」

「君に帰って来てもらいたかったから。」

「じゃあ、もう1回質問するからちゃんと聞いて。」

「分かった。」

「まだ小鳥のこと考えてるの?」

「ちょっと。」

「じゃあ、さっさと放して飛ばしてあげて。」

俺はやってみようと努力する。頭の中の残響はどうやって消すのでしょうか?人に聞いている暇はない。

「もう飛んで行った?」

「もう少し待って。」

目をつぶるとよけい声が響き渡る。目を開けて光軌の顔を見る。俺の天使の、お姫様のお目付け役の。

「バロックモードの維織はいつも俺のこと、絵の中の人物だと思ってる。」

なんでバレたんだろう?彼はいつも俺の考えていることが分かる。なのに俺はいつまでたっても、彼の考えてることがサッパリ分からない。

「光軌のことは現実として考える。でも小鳥の声はまだ聴こえてる。」

「そのくらいで勘弁してあげる。」

「ありがとう。」

彼はいきなり俺に抱き付いて、俺の胸に顔を埋める。ビックリしたけど、しっかり抱いてあげて、短い髪を撫でてあげて、

「なんで急に?」

って、ちょっと笑っちゃって、

「このくらいしないと小鳥に負けそうだから。」

俺は天使の彼が飛んで行かないようにしっかり捕まえる。でも彼のことは現実の人間として考えるんだったな、って思い出して、それじゃあ、彼が走って逃げていかないようにしっかり捕まえようと思う。彼は俺の胸に耳を当てて、

「確かに小鳥の鳴き声がしますね。」

俺は笑って、

「外のスズメじゃないの?」

「もっと高級そうな鳴き声。」

ベッドの中でも、俺の好きな高音部の得意なカナリアの声がする。それはレモン色で、オスだから男のソプラノ。カウンターテナー。バロック時代の。この身体は前に見たことがある。細くて退廃的な若い男の。デスクの上に置いた、俺のケータイが鳴る。俺の胸の中にいる光軌が、

「いいの?」

「うん。」

俺はケータイを無視して、この若者のためなら、人生を無駄にしてもいいかな、って思う。


「アネットと連絡取れましたよ。なんて言うんですか?」

「じゃあ、いつモデルやってくれるのか聞いてみて。」

光軌はケータイを抱えて文字を打つ。

「なんか、維織がちゃんと俺と付き合ってる証拠が欲しいそうです。」

「どういう証拠?」

「ええと、維織に光軌のこと好きです、って宣言して欲しいそうです。そうじゃないとやらないもん、って言ってます。」

「どうすればいいの?」

「じゃあこっち来て、自分で打って。」

「分かった。でもどうして俺が打ったって分かんの?」

「それもそうですよね。」

光軌は俺とラブラブなキスをして、それを写真に撮って、彼女に送る。すぐ返事が来て、

OK, when would you like?(いいよ、いつにする?)」

今度は俺がケータイを抱える。

Anytime you like. (いつでも好きな時に。)」

 

結局、病院には行って、軽いウツ症状だって言われて、でも薬は出せないって言われて。当然だよな。目の前にあったらまたオーバードースするかもしれない。気持ちが安定しないので、しばらく仕事は休むことにした。絵は描きたい。光軌とは上手くいってる。カナリアの声はまだ聴いてる。ネットの動画で、123時間くらい。聴いてて落ち着くわけでも癒されるわけでもなく、聴かずにはいられない焦燥感。絵を描く時も聴いている。光軌はアーティストだから理解してくれる。アネットはそうじゃないから全然理解してくれない。

I can't stand these stupid birds!(このバカみたいな鳥、信じらんない!)」

「アネット、英語使うなって言ってんだろ?維織はこれがないと描けないんだから。」

俺はほんとにこれがないとマジで絵が描けない。俺の脳の部分部分を結合させるためにどうしても必要。このカナリアの声だけが俺の存在を認めてくれて、俺を正気に保ってくれる。

This canary is the world champion.(この鳥は世界チャンピョンだよ。)」

Who cares?(だからなに?)」


俺のバロックのお姫様とお目付け役の天使。ふたり共いい表情。カナリアの世界チャンピョンの声。カナリアの声のトーンが俺の脳のどこかに働きかける。そうすると、その俺の脳のどこかが真直ぐに立っていられるような気がして。それで正気が保てる。上手く説明はできない。モデルがふたりいるから、いつもより大きなキャンバスにした。だから人物が終わってから、また新しく天使を描き込む。俺のお姫様は文句が多い。

I'm tired.(疲れた。)」

「ゴメン。もう少し。」

Hurry up!(早くして!)」

「アネット!」

光軌が叫ぶ。俺は観念して、

「分かった、ちょっと休憩にしよう。」

アネットは真っ直ぐ俺のPCに行って、俺のカナリアチャンピョンの動画を消して、

「あー、やっと静かになった!」

そして彼女は、光軌の部屋からなにか持って来て、俺の頭に乗せる。ヘッドフォン。

「ダメだ。頭が自由に動かせないと絵が描けない。」

アネットはふて腐れる。光軌が、

「ふたり共、子供みたいに駄々をこねて。」

アネットは光軌を捕まえて、前にアートスクールの近くで見たような、舌が入ったキスを始める。光軌はソウルメイトとはそういうキスするんだって言ってた。お姫様を俺の絵に戻すのは難しくて、でも光軌によると、俺達がちゃんとお互いを向き合っている間は、彼女はお姫様をやってくれるそうだ。


俺のソプラノ歌手のカナリア。ベッドの時も歌ってくれる。光軌の身体は意外となんていうか、質量が高くて、細いけどずっしりした存在感がある。彼がいつも俺にキスしてくれる側で、そして抱いてくれる側で、俺は考えて、俺っていつもこうだったかな?鉄司との時はそうだった。彼が俺を抱いてくれた。暁登の時は?俺達ほとんど年も一緒だったし。よく覚えてないけど。暁登を描いていた時の、もっと若い時の俺は、筆を止めて考えるということがあまりなかった。最近は時々筆が止まる。モデルがいる時は、対象がある時は、止まらない。筆が止まる時、俺はなぜ止まるのかということに興味はなくて、また筆が動き出した時に、なぜ動き出したかについて考える。昼間は、抑うつ気分でも仕事はできて、海外のアートギャラリーにこっちの画家のインフォメーションを送って、あっちの欲しい絵を聞いて、俺のマネージメントしてる画家に会って。そういうことはできる。夜、スタジオに行って、もうなにも描けないなって自嘲的な気分になって、そうすると抑うつ気分独特の現実の見え方がして、現実と非現実の間のスリットに落ちて、そして描けるようになる。カナリアの声がするともっと楽にそれができる。きっとカナリアはそのスリットに住んでいて、俺にその世界からインフォメーションを投げてくれる。これ以上、うまく説明はできない。


週末、寝ていて何度も起きてしまって、それは絵のインスピレーションが勝手にやって来て、俺に描かざるをえない状況を押し付けてくるから。何度も光軌を起こしてしまう。彼は壁際に寝るのが嫌いで、だからいつも俺が壁際に寝ていて、だから彼を起こしてしまう。夜中に俺のスタジオにカナリアの声が響く。今度の絵にはバロックの空に天使と一緒にカナリアを描いた。地上にいて歌っているカナリアも描いた。機械仕掛けの小鳥みたいに首をあっちこっちに向けている鳥をたくさん。最近は上手くカナリアの声を頭の中で残響にすることを覚えて、アネットがいる時は彼女の嫌いなカナリアの動画をかけなくても、残響で大丈夫なようになった。我儘なお姫様。どうやって残響にするかというと、難しい装置はいらなくて、彼女が来る数時間前からしっかりカナリアの声を聴いて、それを脳に覚えさせる。それだけのこと。俺はたった1匹の自分が気に入ったカナリアの、30分の動画で、高音部が上手なその1匹しか聴かないから、それは難しくなくて、もう彼の歌のパターンも分かってるし。カナリアの声を聴かないと絵が描けない画家。この不可解な現象はいつまで続くんだろう?やっぱり光軌を起こしてしまった。スタジオに来ると夜中だろうとモデルにされる危険性があるので、彼は俺がここにいる時はあまり入って来ない。でも今夜は俺の絵をのぞき込んで、

「大分できてきたね。」

「ああ。」

「平和な感じ。」

「そうかな?それは言われたことない。」

「新しいスタイル?」


彼は自分で上だけ脱いで、絵の中に入ってくれる。俺はちょっと笑って、

「なんにも言ってないのに。」

「だって、天使役まだできてないでしょ?」

描き始めたら思い出した。やっぱり俺は暁登にも抱かれる方だった。暁登を描いていて、まだ休憩の時間じゃないのに、俺の所に来て俺のことを座ってる椅子ごと抱いて、俺は手にたくさん絵の具がついてて、だから彼が俺の服を脱がして、俺はそうなったらほんとは絵の具のことなんてどうでもよかったんだけど、されるままなのが気持ちよかったからそのままで、彼は俺を冷たいスタジオの床に寝かせて、足を上げさせていきなり俺の中に入ってきて。

「維織、なんか他の男のこと考えてる。」

光軌にはなんでも分かってしまう。

「ゴメンね。」

でもそれ以上突っ込んでこない。スタジオに俺のカナリアの声が響く。なぜか光軌はカナリアの声を気にしない。アーティストだから理解してくれる。多分。

「君は鳥の声、気にならないんだね。」

「なにを言っているのか理解しようとしてる。」

「カナリアが?」

「そう。なにか言ってる。」

「どんなこと?」

「楽しいこととか、嬉しいこととか。」

「いいな。」

「そうでしょ?」

「彼はもっと色んなことを言ってるのかと思った。」

「どんな?」

「現実と非現実の間にはスリットがあって、彼はその中から真実を投げてくれる。」

「そのカナリアはこの絵のどこにいるの?」

「この一番上の。天使達に混じって飛んでる。俺のソプラノ。」

俺のカウンターテナー。フィリップ・ジャルスキー。バロックの。

「これ?」

「そう。彼のカナリアは絶対嘘を言わないから。」

「綺麗だね。」

「そう。俺達絵描きは人々に美を伝える。」

彼は俺の描きかけの絵を一通り見て、そしたら俺の所に来て、キスしてくれる。また暁登のことを思い出す。あの後、結局俺は手についた絵の具のことなんてどうでもよくなって、彼に抱き付いて。光軌は椅子に座ってる俺の膝に頭を乗せて、

「また他の男のこと考えてた。」

「ゴメン。」

「この絵、いつものと違う。きっと話題になる。」

「そうかな?」

暁登とは長かったからどうしても思い出す。いけない。また思い出してしまった。


「俺はどうして1日中、このカナリアの声を聴いているんだろう?」

「聴きたいんだったら気にしなくていいんじゃない?アネットがいる時だけ止めれば。」

「なにか意味があるんだろうか?」

「まだウツ症状があるんじゃない?心配ならまた病院に行く?」

1匹の同じカナリアの声を1日中聴く。30分足らずの動画を何度も何度も再生して。俺はその異常性にやっと気付く。動画を消してみる。そうすると頭の中の残響が、動画の音よりもっと大きく聴こえる。依存症?中毒症状?でもこのカナリアを飼って、歌を教えて、いつも聴いている人がいるわけだから、俺だけがそんなに異常とも思えない。

「なんか他の物も聴いてみたら?」

光軌は俺のためにバッハのカンタータの動画を探してくれる。バロックの教会音楽。ボーイソプラノ。これだったらカナリアの声と似たような効果があるかもしれない。以前、俺はいつもこういう曲を聴きながら絵を描いていた。でも数分聴いて、やっぱりカナリアじゃないとダメだって気付く。俺はどうしたらいいのか分からない。光軌は、

「明日にしよう。もう寝た方がいいでしょ?」


順序として、壁際の俺が先にベッドに入り、彼も入って俺のことを背中から抱いてくれる。残響が頭に響いて眠れない。

「維織の身体からカナリアの声が聴こえる。」

「ほんと?」

「うん。」

「ゴメンね、うるさくて眠れないでしょ?」

「そのうち静かになるでしょう?」

「多分ね。」

「早く静かにして寝なさいって言ってあげて。」

「カナリアに?」

「そう。」

「分かった。やってみる。」

俺はそれを試しにやってみるけど、

「あんまり効果ないみたい。」

「鳴くのはまた明日にしなさいって。」

「カナリアはいつ寝るんだろう?」

「太陽が沈む時。」

「じゃあナイチンゲールは?」

「太陽が登る時。」

俺のこのカナリアに対する執着は、あの学校で鉄司に会った時から始まっている。なにかそれに意味があるのだろうか?鉄司のことなんてもうどうでもいいはずなのに。

「維織また他の男のこと考えてる。」

「なんで分かるの?」

「腰が動く。」

「ほんとに?」

「うん。」

「じゃあもう1回やってみるから。」

誰か男のことを考えよう。誰にしようかな?俺が光軌くらいの年の頃、今の俺くらい年上の男とヤっていて、ソイツは重症の足フェチで、最後はいつも俺の足に擦り付けて、そして足の上でイってた。

「すごいエロいこと考えてたでしょう?」

「なんで分かるの?」

「腰だけじゃなくて足も動いてた。」

「動かしてないよ。」

「俺は感じた。」

「これじゃあ浮気もできないな。でもさっきからのはみんな過去の男のことだから。」

「過去の男でも、俺と一緒にベッドにいる時はあんまり考えない方がいいでしょ?」

「そうだけど。じゃあ光軌のこと考えるとどうなんの?」

「じゃあ試しに考えてみて。」

「うん。」

光軌のことを考えると、必ずヌードデッサンのあの教室のことが浮かんでくる。背が高くて細くてスタイルのいい。光軌は鉄司みたいに変態じゃないから、特別にエロイことした記憶はないな。いけない、また他の男のことを考えてしまった。俺の腰、動いたかな?いつも思うんだけど、俺、滋通とだけはヤったことないんだよな。あの仏陀ばっかり描いてる変な男。タイミングの問題?とっくにヤっててもおかしくないんだけど。俺はなにを待っているんだろう?What am I waiting for? (俺はなにを待っているんだろう?)英語で考えてたら、光軌にバレないかな?Shigemiti always wants me, touches me, licks my face and kisses me,(滋通はいつも俺が欲しくて、触りたくて、顔を舐めて、そしてキスして。)but we have never slept together. (でも一度も一緒に寝たことないんだよな。)

「今の考えるの長かったですね。」

「そうかな?」

「暁登さんのこと?」

「そうじゃない。」

「こないだ会いましたよ。」

「えっ?」

「ここに来て、インターフォンで見てあんまり違ってるから。」

「どういう風に?」

「男らしくガッチリして、ヒゲを生やして。」

「それでどうしたの?」

「維織の絵の中にいる、バロックの泣きそうな顔と全然違ってたから入れてあげなかった。」

「いつの話し?」

「つい昨日。」

維織はベッドを飛び出して窓の外を見る。暗いし10階だからなにも見えない。

「どうして俺に言わなかった?アイツどこに行ったんだろう?」

「維織がいつも他の男のことを考えてるから。」

嫉妬?俺は暁登のことをもう愛してはいない。

「俺は暁登のことはもう愛してはいない。でも忘れてないし、心配もしてる。」

「じゃあ、もしそれが本当だったら言いますけど。」

「本当だ。」

「暁登さん、鉄司さんのとこにいるって。」

「鉄司の?」

鉄司と暁登との接点を考える。思い出せない。


「維織、もう夜中だよ!」

「どうしても行かないと。」

俺は服を着て、タクシーを呼んで乗り込む。光軌も慌ててついて来る。鉄司の家のカギはまだ持っている。未練があったわけではない。勝手に家に入って、リビングのドアを開けると、鉄司ともう1人の男。暁登だった。光軌が言ったように、男らしくてヒゲを生やした。ふたりはシャンペングラスを持っていて、そこに3人目の男が入って来る。白っぽい品のいいスーツを着ているが、人目で堅気でないと分かる男。その男が、

「あとふたつグラスがいるな。」

それをさえぎるように俺が、

「どういうことだ?」

暁登が巨大スクリーンのテレビをつける。局部が露わになった暁登。今のじゃなくて、俺が彼を描いていた頃の、まだ若い、俺の天使。

「俺は、維織が鉄司に合う前からパトロンと寝てたよ。」

聞き覚えのある甘いよがり声が画面から流れてくる。暁登の綺麗な白いお尻をかき分けて、巨大なペニスが入って来る。ソイツのケツを見てるとそれが鉄司のモノだって分かる。もうひとり男がいて、ソイツは知らないヤツで、俺の可愛い暁登の口の中でペニスを動かしている。光軌が、

「維織、もう帰ろう!」

「いや、俺は暁登のことがどうしても忘れられなかった。でもこれで忘れられる。」

俺と光軌はグラスを受け取って、俺は画面を真っ直ぐ見詰めて、光軌は目をそむけている。

「俺はあの後、北欧なんかに行かなかった。パトロンと一緒にパリで遊んでた。美術館を回って。もうすぐ俺の個展を開いてくれる。」

暁登はパトロンに微笑みかける。彼は有名なギャラリーの名前を言った。俺なんかにはまだ手の届かない大きなギャラリー。俺達はふたりでよく画家になる夢を語り合った。鉄司が暁登のケツの1番盛上がった所でイって、もうひとりの男が暁登の髪を乱暴に引っ張って、顔を上に向かせて、彼の口の周りに自分のモノをかけて、暁登はそれを美味しいキャンディでも舐めるように舌で味わって、その瞬間に、俺と光軌はそこを出た。


帰りは歩いた。歩くには遠かったが、外の風で頭を冷やしたかった。

「暁登さんのこと愛してないなんて嘘でしょう?」

「アイツのことはもう忘れた。」

「嘘でしょう?」

光軌はだんだん足が遅くなって、とうとう見失いそうになる。俺はコンクリートの道端に座り込んで彼を待って、ふたりでそこに座って、

「アイツはああいう男なんだ。嘘のつける。さっきので分かっただろう?俺は暁登が鉄司と知り合いだってことも知らなかった。」

「暁登さん、絵を描いているの知らなかった。」

「アイツの絵はパトロンなんていなくたって成功するはずなのに。」

「そうなの?」

光軌が立ち上がって歩き出したので、俺もそうして、ふたりでしばらく黙って歩いた。暁登は俺にとって特別な存在だった。絵のモデルとしてもそうだったし、恋人としてもそうだった。光軌が、

「忘れた方がいいですよ。あんな人。絵はどうするんですか?」

「絵は残しておく。」

「そうですよね。絵に罪はないですもんね。」

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千本松由季

Author:千本松由季
東京都出身。カナダ在住。
男同士の恋愛を、様々なテーマで書いています。作品は長編を中心に50作以上。
本にしてくださる出版社を探しています。お問い合わせも歓迎しております。
bridgetteyuki@hotmail.com
イラストも描いています。

©Yuki Sembommatsu 2017-2018