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短編小説『男のリサイクル』

  09, 2018 11:19
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『男のリサイクル』

あらすじ/ファッションモデルの主人公。退廃に憧れる彼は、次第に薬におぼれていく。


スイムウェアの撮影。朝っぱらから海水浴場。女とふたり。肩を抱いて寄り添って、幸せいっぱいに微笑む。その女、アイドルで少し売れてるけど、あちこちに注射針とメスの入った顔で、これのどこが可愛いんだか。モデルは小学生の時からやってるから、俺はどんなに最低なウツな時でもこういう顔ができる。簡単じゃないけど。

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俺がスイムウェアを撮るなら、こんな能天気なとこじゃなくて、ゴージャスなホテルの室内プール。ギリシャ風の柱。でも古いホテルだから、退廃的なムードがある。プールの底からライトが光って。室内の灯りが落としてあるから、そのライトがとても幻想的。これじゃあ水着が見えないか。でもいいや、と思って、俺は手足を広げて後ろから飛び込む。少しずつ、少しずつ沈んで行く。

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その次の日、起きたら夕方。睡眠薬の量が多すぎた。身体が自動的に動いて、近くのバーに向かって歩き出す。昨日の撮影で女がシリコンの胸を押し付けてきて、その感触が今でも気持ち悪い。ここはゲイバーだから基本的に女はいない。ライムを多めにもらってウォッカに絞る。オレンジ色の抗不安剤をいくつかぶち込んで、指を入れてかき回す。右ポケットから酔い止めを、左ポケットから鎮痛剤を出して、ウォッカでそれを喉に流し込む。

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このコンビネーションは偶然発見した。飛行機でロケに行った時、いつものように酔い止めを飲んでいて、頭が痛くなったから鎮痛剤を飲んだ。そしたら笑いが止まらなくなって、それが1時間以上持続する。以後、抗不安剤とウォッカが加わって最強の組み合わせができた。不思議なことに、他のヤツには全く効かない。きっと頭が最初からある程度おかしくないと効かない。

5

薬の効果はまだなくて、不機嫌な俺の脳。そういう時の癖で、俺の指が小刻みにカウンターを叩く。無意識に、ノンストップで。誰かが俺の隣に腰かける。

「君、今、酒になにか入れただろう?」

大柄な男。黒いスーツ。好みのタイプではある。俺は男を見て、まばたきをふたつして、それをあいさつ代わりにする。

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薬はなかなか効いてこなくて、俺はそれは昨日の健康的な海のせいじゃないかと考える。刺すような日差し。メイクアップアーティストがずっと俺に傘をさし掛けてくれた。ちゃんとお礼を言った?覚えてない。

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若い男が話しかけてくる。俺のファンでサインが欲しいと言う。俺はそんなに売れてる訳じゃないから、こういうことは滅多にない。1番人気のあったのは中学生くらいで、雑誌の専属なんかやっててチヤホヤされていた。俺は適当にサインをでっちあげて、男が手を差し伸べて、俺は握手がしたいのかと思ったら、彼は俺の手の甲にキスをした。そんなことをした人はいないから、俺は照れてクスって笑って、ああ、やっと薬が効いてきたな、って思った。

8

隣に座ってる大柄な男が俺に聞く。

「君、なに?モデルさん?俳優さん?」

俺は面倒くさいから適当に答える。

「俺、別になんでもないですよ。」

そこから俺はゲラゲラ笑い出す。なにを見ても、なにを聞いても可笑しい。男はあきれて俺の方を見る。

「なんの薬入れたのか教えてよ。」

「他の人には効かないですよ。」

知らない人と喋ってるせいか、俺の指はまだカウンターを叩いている。男はその手を握る。それやってるのは無意識だから、俺は手を握られてドキッとする。

9

バカな男と別れたばっかだから、俺はしばらく男はいらないよ。狭いゲイ業界、別れてはくっつき、また離れては次に行く。これをリサイクルと呼ぶ。俺はまだリサイクルはいらないよ。男は俺の手を離す。俺の手はまた小刻みにカウンターを叩く。

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