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短編小説『水没した俺と2匹の天使達』

  13, 2018 05:11
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『水没した俺と2匹の天使達』

あらすじ/ウツ病で入院中の清志(きよし)は病院の警備員、武道(たけみち)と出会う。


「なんでお前はそうやって自分を傷つけたいんだ!」

ドクターの怒号。

「俺、なにもしてないし!」

「本館のビルから飛び降りようとしたそうじゃないか!」

「こっから飛び降りたらどうなるかなー?って、下の方見てただけですよ。」

カギのかかった病棟を脱走して、屋上から下界を見てたら、警備員に捕まった。それだけ。精神科の病棟。ここはどっちかというとウツ病の患者が多い。ドクターは入院患者全員に聞こえるような勢いで怒鳴り続ける。

「俺の患者から自殺者は絶対出さない!」

カッコよく言うけど。そんなの無理だし。俺達みんな死にたいし。このドクターまだ若造だから。


あの時、屋上から下を見てたら、いきなり後ろから抱き付かれた。警備員の制服。俺は抵抗して、ソイツを思いっ切り蹴ってやったら、1度身体が離れて、見たら俺のタイプのマッチョなイケメンで、ワザと暴れて抱き締めてもらって、泣く真似をして厚い胸に顔を埋めて、手を握られてビルの下まで連れて行ってもらった。名札の名前はIZUMI


今日は見舞に来る人が多い土曜日。俺は懲りずに病棟からの脱出を計る。丁度面会時間の終わる頃で、俺は見舞客に紛れて外に出た。俺は信用がないから、きっともう警備員には連絡が行ってる。振り向いたら遠くに、こないだと同じ警備員がいる。IZUMI。ラッキーなのかアンラッキーなのか?また抱き締めてもらいたい。俺って男に飢えてるの?一瞬目が合った。隙をついて人ごみに紛れる。背の高い彼が俺を探して病院の門を出て行くのが見える。でも俺はそこにはいないよ。俺の居場所はここ。病院の庭に大きな噴水があって、そこには石像の天使が立っている。翼を開いて、今にも飛び立って行きそうな。噴水の裏側の、人々から見えない所に俺は横になる。水の中に。


なんだ、見た目より浅い。楽勝で息ができる深さ。でも噴水の水はバシャバシャ落ちて来るから、俺の身体は浮き沈みして、伸びた髪が泳ぐ。俺って、いい溺死体になれるかな?なんだか眠くなってきた。そういえば昨日から新しい薬になって、きっとそれで眠くなる。水はそんなに冷たくない。今って夏なの?それとも秋?選択肢は4つある。長く入院してると、日付どころか季節まで分からなくなる。


ほんとは天使は2匹いる。1匹は翼を広げてるけど、もう1匹の方は翼を閉じてお祈りしている。俺の沈んでる所から、お祈りしてる天使の横顔が見える。俺って別に死にたいわけじゃないんだよな。だったらとっくに病院を抜け出してる。問題を起こしたい。それは俺の精神年齢が低いから。ろくに高校行ってないし、同級生だったヤツ等はもうとっくに卒業してる。


誰かがいきなり俺の腕をつかんで、水の中から引きずり出す。またあの警備員だ。彼は俺の両腕をガッチリ押さえる。看護師の宮崎が俺の目の前に立ちはだかる。

「清志!」

どうして俺のいる場所が分かったんだろう?

「お前のケータイ。」

俺の姉さんからもらった。そうか、あれにGPSが。

「でも水没したのに。」

「それは俺は知らん。」

俺がポケットからケータイを出す。IZUMIがそれを見る。

「防水なんですよ。」


宮崎のケータイがけたたましく鳴って、ヤツはバタバタ精神科の方へ走って行く。IZUMIと俺だけが残される。彼はビショビショの俺を見て笑う。

「また君だね。」

俺は照れて下を向く。やっぱりこの人はいいな、って思う。俺の好み。優しそうで。年は多分20代の半ばくらい。

「なんでそんなとこに浸かってたの?」

「問題行動。」

「問題行動を起こしたいんだ。」

俺は連行されて行く。歩きながら彼が俺に囁く。

「ダメだよ、命を粗末にしちゃ。君、こんなに可愛いのに。」


看護師の宮崎が俺の病室を覗く。

「お前にお見舞いの人が来てるよ。」

俺の見舞なんて姉さんくらいで、それもこないだ来たばっかりだし、学校行ってないから友達もいないし、誰だろう?

「今日は仕事が早く終わったから。」

俺の好みの警備員。私服だと全然違う人みたい。俺は恥ずかしくてあんまり話しもできなかったけど、彼は名前を教えてくれた。泉というのが苗字で、名前が武道(たけみち)なんだって。

「強そうな名前だね。」

俺は小さい声でそう言って。


彼はしばしば来てくれて、制服の時もあったし、私服の時もあって、段々俺も慣れてきて、普通に話せるようになった。真面目な人で、お金貯めて大学院に行くんだって。その時は秋の終わりだった。

「俺、これから空港勤務になるから。」

「空港?」

「羽田空港。」

そしたらもう会えなくなるって思い込んで、バカみたいに泣いちゃって、彼は俺の泣き顔を見て微笑んで。

「また会いに来るから。でも君も早く退院して。」


退院する努力をしたことがないから、それ言われても数日はボーっとしてて、それからはやっぱりあんまり来てくれなくなって、俺は退院しようと決めた。俺達はメールとかは毎日してて、彼は色んな飛行機の写真を撮って送ってくれる。俺は羽田空港に国際線があるのも知らなかった。問題行動がなくなって、ウツの症状も軽くなって、俺は退院することになった。武道が病院まで迎えに来てくれた。


噴水の天使の前で写真を撮ってもらった。飛び立ってる天使のマネをして腕を大きく広げて、それから、お祈りしてる天使のマネをした。もうここには戻って来ませんように。アーメン。


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