短編小説『紅茶作って熱いから冷まそうと思ってフリーザーに入れたら凍っちゃった。』 - エッチでハッピー!!✩★✩ゲイ要素の高いオリジナル小説✩★✩
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短編小説『紅茶作って熱いから冷まそうと思ってフリーザーに入れたら凍っちゃった。』

あらすじ/お腹の空いた広詩(ひろし)は、ケンカして出て行った義忠(よしただ)の家で食べ物を探すが、冷蔵庫も空っぽで、発見したのは本棚の奥にあった紅茶の箱だけだった。義忠は有名ファッションデザイナーで、ホームレスだった広詩をモデルとして育て上げたのだったが。



「分かった、みんな俺が悪いんだろ!」

そう怒鳴って彼は出て行った。俺はベッドにひとり残された。でもどうすんの?出て行かれても、ここヤツの家だし、俺ここに住んでないし。みんなアイツが悪いのは当然で、バカバカしくなったし、昨夜飲み過ぎて疲れてたから、もうひと寝入りすることにして、起きたら昼過ぎだった。


腹減ったけど、俺ここに住んでないし。ここにはセックスのために2回来ただけで、昨夜で3回目で、でもいつもは終わったら、さっさと帰ってたし。義忠どこ行ったんだろう?電話してみようか?それもアホらしいよな。浮気ばっかしてんのあっちだし。


床に散らばってた俺の服を集めて、それ着てキッチンに行ってみた。冷蔵庫を開けようとして、やっぱりそれってプライバシーの侵害?って思って手を止めた。そしたら昨夜あの騒がしいゲイバーのトイレで男に言われたことを思い出して、新たに腹が立ってきた。お前の男、他のヤツともヤってるぜ、だって。今朝目が覚めて義忠にその話しをしたら、急に怒鳴り出して。ということは、それってほんとなんだよな。だって浮気してないんなら、そんな風にいきなり怒らないもんな。


俺は冷蔵庫を開けた。そこにはなにも入っていない。今までずっとなにも入れたことないんじゃないかと思うほど綺麗。なにひとつ入ってない。俺はフリーザーを開けてみることにした。そっちには氷とアイスパッドが入っている。それだけのためにこの大きな機械を動かしているのは偉大な電気代の無駄だと感じる。今度はキッチンの棚を開けてみた。扉の付いた、中の見えない大きな棚。この部屋の壁面を覆っている。なにかしらの食べ物はあるに違いない。


その中に俺が見たのは膨大な量の、本だった。ほとんどが大きな写真集か画集で、これだけの本が置けるということは、このキッチンキャビネットが、よっぽど丈夫だということだろうと思う。その中の本をひとつ開いてみた。アレクサンダー・マックイーン。若くして亡くなったファッションデザイナー。写真をちょっと見て、あまりアバンギャルドだから俺にはよく分からなくて、文章も英語だったから読めなくて、またすぐ棚に戻した。他の本もみんなファッションかアートの本ばかりで、義忠ってやっぱりデザイナーなんだな、ってちょっと思って、前は俺もずっとヤツのことは尊敬してて、俺のことをストリートから拾ってくれて、ファッションモデルにしてくれて、ただのひょろ長いだけの俺を、自分のブランドのイメージに使ってくれて、ショーにも出たし、ポスターにもなったし、広告にもなったし。


俺が20才になった途端に手を出してきて、俺も別に異論はなかったから、それで今まできてたんだけど。もうひとつ本を手にしてみた。それは小さいけど厚くて重くて、絵のたくさん載ってる本で、その中のひとつの絵が気になった。天使が目隠しされて、担架に乗せられて、ふたりの男の子がそれを運んでいる。よく見ると天使の翼に傷がある。どうして目隠しされてるの?なんでそんなに悲しそうなの?不思議な絵。多分すごく昔の絵。1903という年が書いてある。なぜか俺は、この絵の意味をなんとしても知りたいと思う。でもその本は英語でもなくて、全く意味不明。


背の高い画集なんかは横に積み重ねられてて、小さい本は立てて置かれている。俺はその横になってる本と、立ててある本の間になにかを発見した。椅子を持って来て中を覗いてみる。黒い箱のようなもの。食べる物かな?って期待する。見ると箱に「TEA」と書いてある。俺に分かるのはそれだけで、英語であーだこーだ説明してあるけど、それは俺には分からない。


複雑にデザインされた箱で、厚紙なんだけど開け方が分からなくて、イラついた俺は箱を破ってしまった。中からバラバラと乾燥した紅茶の葉が落ちて来た。テーブルの上に落ちたのをひとかけ拾って口の中に入れてみた。当然そのままでは食べられない。しかしこのキッチンには食べる物どころか、キッチン用具もなにもない。義忠がここに住んで何年も経つことは知ってる。その間ヤツはここでどんな生活をしてきたのだろうか?


俺は考えて、本がキッチンの棚にあるということは、キッチン用品は本棚にあるんじゃないかなって。ベッドルームに本棚はない、それは知っている。でも一応クローゼットを開けてみる。ビニールに覆われた、たくさんのスーツが見事に整頓されてかかっている。俺が着たのもたくさんある。サイズを見るとSサイズで、それは俺のサイズで、義忠はMLサイズだから、だからそれは多分ほんとに俺が着たヤツで、なんでそんなのとっておくんだろう?って不思議に感じる。彼はメンズのデザイナーで洗練されたスーツやコートが有名。俺みたいな痩せてるヤツが着ても、ちゃんと理屈に合った魅力的な形になる。そういうのは尊敬してる。


本棚を探しているんだった。奥の部屋に入ってみる。俺はこの部屋には入ったことがなくて、そこは机やパソコンのあるオフィスみたいな感じの部屋だった。部屋の3面に天井までの高さの本棚がある。ここのもほとんどが写真集や画集で、これだけ高そうな本、ひと財産になるだろうなって思う。本棚に引き出しがついている。それを開けると、そこにおままごとで使うくらいの小さい鍋と、コーヒーカップがある。


俺はそれを持ってキッチンに戻り、お湯を沸かしてみた。コーヒーカップにさっきテーブルにこぼれた紅茶の葉を入れる。お湯を注いでみる。俺はティーバッグしか飲んだことがないから、どうしていいやら分からず、少し経ってからカップを揺すって、それを口に含んでみる。このキッチンにはスプーンひとつない。なぜなんだろう?義忠がアーティストだから?だから意味不明なことをしたがる?


少し飲んでみたけどあんまり味はしなくて、俺はもう少し待つべきか、もっと葉を入れるべきか考えたけど、面倒くさいから葉っぱを山ほど入れてやった。それだけ入れるとさすがに味はしてくる。いくらなんでも食べる物が紅茶の葉しかないなんて。俺は外に出てコンビニを探そうとも思ったけど、こんな不可思議な生活をしている、才能ある奇妙なデザイナーの彼が少し心配になって、ここにいて帰って来るのを待とうと思う、って言うより、やっぱり電話をしてみようと決心する。


俺が電話をするとどこかで電話が鳴っている。音を追ってみると、洗濯機の上に乗ってる義忠のジーンズのポケットから鳴っている。音が洗濯機の中に非現実的に響いて、なぜかさっきの傷ついた天使の絵が浮かぶ。不吉な予感がする。ヤツのケータイを見ると、なん人か知ってる人がいる。今日は日曜だから、仕事関係の人にかけてもしょうがない。でも俺の知ってるのは彼のアシスタントデザイナーとか、俺のモデルエージェントとかくらい。その他の知らない男達は?その中に義忠と寝てるヤツがいるのかな?でも俺は人の会話とか読むのはイヤだったから、ケータイをそのままポケットに戻した。


キッチンに帰ると、紅茶が大分冷めてしまったので、俺はもう一回お湯を沸かそうとしたけど、面倒くさいから、冷めた紅茶を葉っぱごと鍋にあける。さっきの天使の絵が載ってる本を探そうとして棚の中を見てみた。エンジェルは長い金髪で、可愛い女の子の顔をしてて、それを運んでいるふたりは黒っぽい顔をした、どこにでもいそうな少年達。傷ついた天使を助けてあげてるの?それとも飛べなくなった天使を捕まえて、どこかへ連れて行くところなの?


そんなことを考えていると、いつの間にか鍋が煮立っている。見るとどう考えてもその紅茶は濃過ぎて飲めそうもない。でも試しに飲んでみようと思ってコーヒーカップに注ぐ。なるべく葉が入らないようにしようと思ったけど、それは結構難しくて、ちょっと飲んでみたけど、葉っぱがたくさん口の中に入って来る。この紅茶の正しい飲み方ってなんだろう?俺は文明の利器を使ってそれを検索してみようかと思ったけど、やっぱり面倒くさいからやめる。俺は別に正しい飲み方で紅茶を飲もうとしているわけではない。


一度沸いたお茶は熱すぎてすぐには飲めないので、冷蔵庫に入れる。そしたら冷蔵庫の扉の裏に、ボトルに入ったウォッカがあるのを発見した。鳥が描いてある、よく見かけるデザイン。透き通ったボトルだから見落とした。確か高いヤツだよな、って思って見たらまだ封がしたままだ。義忠の生活。大量のアート関係の本に囲まれて、自分のクリエイトした服に囲まれて、食べ物は紅茶の葉とウォッカしかなくて、自分が3年間育てて来た20才のモデルと寝て、その他の男とも寝て。どこに行っちゃったんだろう?なにしてるんだろう?


10分くらいして冷蔵庫を開けてみたら、紅茶が丁度いいくらいに冷めてたから、飲んでみた。紅茶なんてお上品なものは、俺は普通飲まないし。香りが邪魔だな。味もいらない。苦みは好きだ。もっと冷やした方がいいのかな、って思って、フリーザーに入れてみた。考えてみたら俺なんて、モデルとしてはもう薹が立ってるから、義忠と別れたら家賃払えなくなって、来月からホームレスだよな。もともとホームレスだったとこ拾われたんだから、元に戻るだけなんだけど。だからと言って、ヤツに媚を売るようなマネはしないし。絶対。俺ってもう可愛くないのかな?だから浮気されんのかな?


俺はベッドルームの姿見の前でポーズを取ってみる。先月ファッション雑誌に載った写真は、確かこっち側から撮ったヤツだったよな。どうなのかな?可愛いかな?自分では分からない。世間であんなに可愛いって言われた俺のケツは、あのままなのかな?自分では見えない。クローゼットを開けてその中の見覚えのあるスーツを着てみた。俺が18才くらいの時に着たんだよな、確か。少し小さい。肩幅が広くなったのかな?体重はそんなに変わらないと思うんだけど。義忠とは一緒にパリにも行ったし、ロンドンにも行った。小さなショーだったけど、あっちでも評判はよかった。俺はいつも一番先に出て、歩いて。媒体に出たのも俺の写真が一番多かった。


鏡に映してみたけど、やっぱりそのスーツ、今ではもう似合わない。デザイン性の高い物だから、若い子用のデザイン。なんか悲しくなって、さっきの絵で、連れて行かれる羽の傷ついた天使になった気分になる。目隠しをされて下を向いて。悲しそうに。


俺は冷蔵庫からウォッカを持ち出して、ボトルから直接飲むことにする。まあ、どっちみちグラスなんてないし。やっぱりいいウォッカだな。もうこんないい酒、飲めなくなるかもしれないから、味わっておこう。クローゼットのスーツを見て過去の栄光を思い出しながら酒を飲む。やっぱり酒の方が腹の足しになるな。紅茶なんて苦いばっかで腹の足しにはならない。


そしたらさっきフリーザーに入れた紅茶のことを思い出す。昔のスーツを着たままキッチンに行って、フリーザーを開けた。

「やだ、すっかり凍ってる!」

俺の後ろから聞き覚えのある声がする。

「なにしてんの?」

「紅茶作って熱いから、冷まそうと思ったら凍っちゃった。」

義忠は少し疲れた様な顔をしている。昨夜は俺は酔ってたけど、腹立ってたし。でも彼はそんなに飲んでないはずだけど。

「広詩、まだいたの?」

「まだいたの?はないでしょう?」

せっかく心配して待ってたのに。

「そのスーツ、まだ着られるんだな。」

「でも小さいよ、少し。」

「可愛いよ。」

「え、ほんとに?」


マジで嬉しくなる。ホームレス逆戻りだと思ってた。手に持ったコーヒーカップを見ると、完全に固まっているわけではない。俺は手で上の凍ってる部分を取り出してしゃぶってみた。かじってみると、シャリシャリして苦みが効いてなかなか旨い。

「紅茶なんてどこにあった?」

「あの棚の上。」

そう言ったんだけど、紅茶をかじりながらだったから多分聞こえてない。


「君がそのスーツ着てると、昔を思い出すな。」

甘い声で。俺は警戒する。他に男のいるヤツなんて。上手く騙されないぞ。義忠はスーツを着た俺を抱いてキスしようとする。

「酒くさい!なに飲んでたの?」

俺はまた凍った紅茶をかじり始めたから、返事ができない。義忠は俺のカップを取って、下にたまった紅茶を飲む。

「よく冷えてて、悪くない。」

「でしょ?」

「これどうやって作ったの?」

「ええとね、お湯を沸かしてカップに葉っぱを入れて、でも薄かったから葉っぱを足して、また鍋で煮詰めて、それをフリーザーに入れた。」


自分でそれ言ってる間に、この人はこんな生活感のない空間で、孤高のアーティストで、男は他にもいるかもしれないけど、なんだか愛おしくなってきて、じっと顔を見る。

「今の表情、君を初めて見た時と同じ。」

「どんな?どんな表情?」

「腹の減ったノラ猫に見詰められたような。」

失敬な。あ、でも腹は減ってるよな。

「お腹空いた。」

お腹が空いたと言えば、さっきのかわいそうな天使の絵、あれはなんだったんだろう?


俺は本を出して、義忠に見せる。

「この天使、どうしたの?病気なの?」

「この絵はね、19世紀のヨーロッパで流行ったシンボリズムで。それは神秘主義とか象徴主義とも言われて。フィンランドのヒューゴ・シンベリという画家の『傷ついた天使』という有名な絵。」

俺は腹も減ってるし、聞いても分からないことはいいから、早く天使のことを知りたいと思っている顔をする。

「でもこの画家、最期まで意味を教えないで死んでしまったから、君が自分で想像するしかないんだよ。」

「え、そんなのズルい!」

「じゃあ広詩は、どうなって欲しいの?」


それは天使の羽の傷が治って、目隠しされてる目も治って、またハッピーに空へ飛んで行くのがいい。でも物事ってそんなに上手くいくものなのかな?俺って義忠にどうなって欲しいのかな?義忠は俺にどうなって欲しいのかな?


「俺は義忠のたったひとりの男になって、そうじゃなかったら、もうヤらない。」

彼は黙って聞いている。

「もしそうなったら時々ここへ来て、義忠にフリーザーで紅茶を作ってあげる。」

彼はまだ黙って聞いている。俺と他の男を天秤にかけているのかな?


「広詩、君は急に大人になったよ。」

義忠はなんだか恥ずかしそうに、俺の目を見ないでそう言う。いつも自信に満ちた人だから、そういうのは見たことがない。いつもは彼が俺の手を引いてベッドに行くのに、そして彼が俺のこと抱くのに。今日は逆で。俺は考えて、きっとあの天使の絵は、目隠しして飛んで行かないようにして、でも天使は大人になって強くなって、目隠しを外して飛び立って行って、そして自分の人生を自分で探す。




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千本松由季

Author:千本松由季
東京都出身。カナダ在住。
男同士の恋愛を、様々なテーマで書いています。作品は長編を中心に50作以上。
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bridgetteyuki@hotmail.com
イラストも描いています。

©Yuki Sembommatsu 2017-2018